忘れて、思い出して、知る
沙也加は「はーい」と楽しそうに返事をし、鼻歌を歌いながらコーヒーを淹れる。
そして二人の前にカップを置き、向かい側に座った。
「ありがとうございます。これ、つまらないものですが」
律からの手土産を見た沙也加は、目を輝かせる。
「わあ、マカロンだ。ありがとう、えっと……」
沙也加は出された箱から、流れるように律の顔を見る。
「妃です。妃律」
「律ちゃん!」
普段下の名前でちゃん付けされない律は、なぜか照れた。
そして沙也加は箱を持ったまま、軽い足取りで台所に向かった。
「お母さん、うるさいよ。なにかあったの?」
「あ、栞ちゃん。見て、律ちゃんがマカロン持ってきてくれたの」
二階から降りてきた栞は、律たちの姿を見たとたん階段を駆け上がった。
「岡本!」
宙が慌てて、栞の後を追った。