忘れて、思い出して、知る
なにが起こっているのか全く理解できない沙也加は、マカロンを台所に置いたまま律の横に座る。
「ねえ、律ちゃん。なにかあったの? 栞ちゃん、一か月くらい前から家から一歩も出ようとしないの」
すると律は、申し訳なさそうに話し始めた。
「すみません、私たちのせいなんです」
律は膝の上に置いた、自分の手を見つめる。
「私たちが所属している八課はほかの課と違って、すぐに捜査会議には出れないんです。一か月経っても、事件が解決しなかったら、私たちが呼ばれる。そんな仕組みの部署なんです」
そこまでは知っていることだから、沙也加は頷きながら話を聞く。
「でも一か月前、岡本の同期の男が、ルールを破って私たち八課を捜査会議に呼んだんです。私たちを呼んだ彼は、どうしても岡本と一緒に捜査がしたいと言っていました」
そこまで言って、律はコーヒーを喉に通す。
そして小さく深呼吸をし、話を再開する。
「でも実際は違って、なにか目的があって、私たちを呼んだ。その目的ははまだわかってないんですけど、岡本と一緒に捜査するつもりじゃないってのはっきりしてる。それを本人に言ったら、彼はそんなことをするような人じゃないって言われて」