忘れて、思い出して、知る


「お前にそれを言うかは迷ったんだ」



初めて聞いたと言っても過言ではないくらい、宙は優しい声だった。



「岡本はお人好しで人のことを疑えないし、あいつのこと特に好いてたように見えたからさ」



それに対して、栞は言い返そうとしたが、うまく言葉にできる気がしなくて、黙って聞き続けることにした。



「あのまま、なにもせずに会議室に顔を出してたら、それこそあいつの思うツボだった」



ここまで聞いて、否定なんて出来るはずもなく、栞は俯くしかなかった。



「それに、一課になにか言われるのは慣れたもんだけど、ああいう風に意図的に言われるのは、俺が気に入らなかった」



最後のフォローを聞いて、栞は思いがあふれて涙が止まらなかった。


流れる涙を手で拭う姿は幼い子供のようだった。



律がそっと栞を抱き寄せる。



「岡本、頼む。明日からは絶対に来てくれ。このままだと、遥が倒れてしまう」



栞は律の腕の中で、何度も首を縦に振った。



それから栞は涙が枯れるまで、泣き続けた。

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