忘れて、思い出して、知る
残ったのは、男のみ。
彼は背が高いこともあり、少女から見れば恐ろしい存在だろう。
少女はなにかされると思い、慌ててベッドから降りて部屋の奥にある棚の影に隠れた。
しかし、男は今までポニーテールの少女が座っていた椅子に腰かけた。
「目が覚めてよかったよ、栞。さっきここにいた彼女に聞いたが、なにも覚えていないらしいな」
見かけによらず、男の人は優しく語りかけた。
少女、栞はゆっくりと顔を覗かせる。
「俺は岡本隼人。お前の父親だ」
それを聞いて、栞は物陰から完全に姿を現した。
そしてベッドに上り、隼人を見つめる。
「私の、お父さん……ずっと、一緒?」
「当たり前だ。家族なんだから」
隼人は微笑み、栞の頭を優しく撫でた。
栞はまだ不安そうではあったものの、可愛らしい笑顔を見せた。
数日後、栞は退院し、隼人たちと暮らし始めた。