忘れて、思い出して、知る
「警視長、ちょっと待ってくださいよ。俺、警視長の奥さんが綺麗だなと思って」
「だったら手を出してもいいって言うのか」
隼人が宙の胸倉を掴んだ瞬間、沙也加が隼人の肩を叩いた。
「隼人、捜査の邪魔するなら出てって」
あのときと同じように、笑顔でいながら目が笑っていない。
すると、怒っていた隼人も宙もそろって小さくなりながら謝った。
「警視長の奥さん、あんななりして怖すぎないか」
沙也加の表情を見たわけではない遥も、少々怯えている。
律は苦笑した。
「大丈夫。よほどのことがない限り、沙也加さん怒らないから。それに、普段はめちゃくちゃかわいいから」
それを聞いても、遥は信じられなかった。
「私、岡本沙也加。よろしくね」
沙也加は振り返って満面の笑みで言い、遥に向けて右手を差し出した。
遥はそれが余計に恐ろしく思えたが、立ち上がって彼女の手を握った。
「真瀬遥です」