忘れて、思い出して、知る
呼び方に全くもって執着していない遥は、興味なさげに視線を逸らす。
「律ちゃんは律ちゃんのままかな」
そう言って笑った沙也加は、いつもと変わらない笑顔だった。
沙也加の笑顔は、見ている人を照れさせる魔法でもあるかのように、二人を照れさせた。
二人は首を縦に振っただけだった。
「よし、じゃあ捜査始めよう。普段は誰が仕切るの?」
「俺です」
遥は小さく右手を挙げた。
そして手に持っていた捜査ファイルを沙也加に渡そうとすると、突き返された。
「ここでは年齢なんて関係ない。いつでも実力のある人が上」
その考え方は、遥に似るところがある。
「ここでハル君が仕切ってるってことは、ハル君が一番実力があるってことだよね。この課で一番ってことは私よりも上だから。私に気を遣わずに、いつも通りにやって」
初めは躊躇していたが、沙也加のまっすぐな目を見て、ホワイトボードの前に立った。
「火神さんも警視長もちゃんと聞いててください」
遥はそう言って咳払いした。