忘れて、思い出して、知る
思い出される真実
「桃ちゃん!」
沙也加は息を切らしながら、栞の病室に入った。
それと同時に、しまったというように口を押えた。
栞は頭や腕に包帯を巻いている。
ぞろぞろと栞の病室に八課のメンバーが入っていく。
「私、ぼーっとしてて、足滑らしちゃいました」
彼女が無理に、明るく振る舞っていることはすぐにわかった。
だが、来たのはいいがなにを言えばいいのか、どう声をかけたらいいのかわからない、という状況だった。
すると、いつも弱音なんて吐かない栞が、つぶやくように話し始めた。
「ねえ、私ってなに? 誰? 今までの岡本栞どこに行っちゃうの?」
栞の訴えに、誰も答えられない。
「私はいないほうがみんな幸せだった? やっぱり階段から落ちた時に死ねばよかった。ううん。十五年前に殺されればよかった。そしたらみんな笑って……」
栞が最後まで言い切るのを遮るように、沙也加が資料の頬をたたいた。
左頬を押さえながら沙也加を見ると、沙也加は泣いていた。
栞よりも悲しそうな顔をしている。