忘れて、思い出して、知る
「バカ! なんでそんなこと言うの?」
栞は泣いて話す沙也加を、見つめることしかできない。
「最初はなんで私が他人の子供の世話なんてしなきゃいけないのって思ってた。でも、栞ちゃんと過ごした二十年は無駄なんかじゃない。だって、私楽しかったもん。栞ちゃんと一緒にいれて、楽しかった。だから、死ぬとか言わないでよ……」
沙也加はしゃがみ込み、顔を覆って泣き始めた。
律はその背中をさする。
「岡本、あんな過去聞かされて混乱するのも無理ないと思う。だけど、あんたがいなくなればいいなんて、誰も思ってないから」
栞は宙と遥の顔を見る。
二人は律の言うことを肯定するよう、笑う。
「私たちが知ってるのは、人一倍正義感が強くてお人好しな岡本栞。花村桃じゃないんだよ」
「そうそう。岡本は岡本。それでいいじゃん」
今の自分でいいと言ってもらえて安心し、栞は泣き始めた。
「岡本、十五年前の事件のことなんだが……」