忘れて、思い出して、知る
宙は栞の質問に素直に答えた。
そして、栞はテーブルの上に封筒の束を置いた。
「これは寺崎苺が持っていました。部屋から出てきたんです。宛名は父の名前。父はこれを捨てずに持ってたんです。どうして姉が持っていたかは分かりませんけど。そこで、これを書いた人を捜します」
自信ありげに言った栞に、遥は呆れた視線を送る。
「お前な、名前だけで見つかるとでも思ってんのか。もっとしっかりした手がかりを持ってこい」
栞は悔しそうに、資料を持つ手に力を入れた。
「昨日はなにも言わなかったが、お前の茶番には付き合ってる時間ねーんだわ。少なくとも俺は後回しにした女性四人殺人事件の捜査を再開したいし」
「でも……」
栞はなにか言いたげに黙り込んだ。
すると、滅多に声を荒げない遥が、栞を怒鳴りつけた。
「いいかげんにしろよ!」
普段聞かない声に、体が強ばる。
「今のお前のままでいいって言ってんだろ。お前、花村彰の浮気相手見つけるだけとか言ったけど、そんなことできんのかよ」
「……できます」
反論する声は、恐ろしく小さくて、遥に圧倒されていることを物語る。
「よく言う。殺しにかかるかもしれないって、自分でもわかってんだろ?」