キミがくれたコトバ。
9.5



昨日ほど、緊張する日はなかった。

あれで本当に正解だったのか、今だに自問自答している。

急に靴なんてプレゼントされて、戸惑っただろうな。

でも、だったら何が正解だった?

日奈子のコンプレックスについては一切触れずに、無理をしなくて良いと伝えるには、あの方法しか無かったと思う。

人間関係は、勉強と違って、正解が曖昧だ。

時と場合によって、ころころ変わる。

だから生きにくい。

全ての物事が、もっとシンプルだったら、世界はどんなに美しいだろう。

色々考え過ぎてしまって、いつもより早く学校に到着してしまった。

誰もいない校舎は、いつもすごく静かだ。

でも……。

僕は何かを感じとった。

異様に静かだ。何だ、この違和感は……。

いつもと何も変わらないはずなのに、何だ?

やけに、静かすぎる。何かが不自然だ。

注意深く周囲を見渡すと、1枚の貼り紙に気がついた。

「何だよ、これ……。」

そこには、こう書かれていた。

スクープ!
〜特進科Aカップル破局の理由が判明!〜
その理由は『身長差』!

こんなの……、もしも日奈子が見たら……!

気がついたら、身体が動いていた。

日奈子が学校に来るのは多分、1時間目が始まった後。

それまでに、学校中の貼り紙を剥がさないと!

でも……、

そこからが大変だった。

教室に、廊下に、トイレの前に……。全部で30枚か……。

この学校の新聞部、どうなってんだよ……。

取り敢えず、これを処分しなくちゃな。

完全に無くなるように。

日奈子が、悲しまなくて済むように。

僕はポスターをまとめて、燃やした。

「おはよう。」

僕の予想通り、1時間目の途中で日奈子が登校してきた。

「おはよっ。」

平然と。表情に出さないように。

気をつけながら言った。

「大輔はいつもの通り、寝坊。京は熟睡中。」

「で、颯磨くんは今日も、勉強中?」

「うん。」

勉強……、してて良かったんだろうか……。

固いと……思われたりとか……。

「私にも、勉強、教えて!」

え?勉強を……?

「いいけど……。」

「やったっ!私も、頭良くなりたいんだ。颯磨くんみたいに。」

僕……みたいに……?

僕みたいになったって、何の得もないのに。

「颯磨くんはいつも、どうやって勉強してるの?」

「んー、学校で習うことは、教科書を見れば全部載ってるから、それを読むだけ。後は、景色とか。」

「景色?」

「景色を見てるだけでも、凄く勉強になるよ。」

今日と昨日で景色はそんなに変わらない。

でも、変わっていないわけではない。

そんな、小さな変化に気づくことこそ、本当の勉強になる。

「へぇっ。」

今日のキミは……。

青空にそよそよと吹く、風のようで、
僕は今日も……、

「ちぃーっす!!」

保健室のドアが、勢いよく開いた。

その声と音で、京が目覚める。

「おはよう、大輔くんっ。」

日奈子のこと、ずっと、見ていたくなる。

なんでだろう……。

こんなの、今まで1度もなかったのに。

「そういえば!!今日、登校してる時に、こんな紙、もらったんだけど……!!」

ひらひらと大輔が1枚の紙を見せる。

っ…………!!!!!

バカ!大輔、その紙……!!

新聞部の記事……!全部処理したはずなのに……!

「この写真に写ってるの、日奈子ちゃん本人??」

手遅れだった。

「何それ……。」

日奈子の顔が曇る。

見たくない。そんな顔、見たくない。

僕が目を奪われて、逸らせなくなるのは、そんな表情をしているキミじゃない。

「身長………………。」

そう呟くと、日奈子は保健室を飛び出した。

「日奈子!!」

僕は慌てて後を追いかける。

1人になんて、させられるわけない……!
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