キミがくれたコトバ。
10



何で……、健吾、新聞部の人に真相を話したっていうこと……?

意味分かんないよ……。

どうしてそこまでするの?

そんなに私の身長が嫌いだったの?

だったらどうして………………、

どうして、私と付き合ったの………………?

「日奈子!!待てって!」

駄目だよ。今、颯磨くんに見せられるような表情はできないよ……。

でも……。

颯磨くん、足も速いんだ。

私は直ぐに追いつかれてしまった。

颯磨くんが私の腕を掴む。

「日奈子。」

私が颯磨くんの方を向くと、泣いているのに気がついたのか、少し動揺していた。

「大丈夫……?な、わけないよな……。ごめん。」

何で……?どうして颯磨くんが謝るの……?

私が……、困らせてるから、だよね……。

誰にも迷惑はかけないって、決めたのに……。

「大丈夫っ……!ちょっと、パニックに……なっちゃった……だけ……だから……。」

笑わなきゃ。なのに……。

「早く、……保健室に戻らないと……、み、みんな心配する……よ……ね……。」

何で……。

明人くんや、幼馴染みだった健吾の前では、辛くても、上手く笑えた。

涙を抑えられた。

なのに……、なんで颯磨くんの前では、それができないの……?

「無理に戻らなくていい。」

「……でも。」

「もっと人を頼っても良いと思う。」

駄目だよ、そんなの……。

「……来て。」

えっ……?

考える暇もなく、ただ颯磨くんの後を追った。

颯磨くんの背中からは、何の感情も読み取れない。

颯磨くんは少し、そういうところがある。

皆とは違う、独特なオーラがある。

どこか孤独そうなオーラが。

「何処……行くの?」

「もうすぐ着く。」

颯磨くんは、それだけ言って、私もそれ以上は聞かないで、ただ無言のまま、歩き続けた。

「着いたよ。」

見るとそこは、人気のない公園だった。

2度目のデジャヴ。

ここ、明人くんと別れた後、知らない人から励まされた時と、颯磨くんが靴をプレゼントしてくれた時に来た公園……。

「気持ちを落ち着かせたい時とか、整理したい時には、いつもここに来るんだ。」

私たちは、また同じベンチに座った。

そうしたら、何故か安心して、また涙が出てきてしまった。

颯磨くん……、きっと困ってるだろうな……。

「私は……、大丈夫……。颯磨くんの気持ちも、分かかってるから。」

「えっ……!?僕の気持ちって……!?」

「私の身長のこと。……本当は、買い物だって、一緒に行きたくなかったよね……。ごめんね、迷惑かけて……。ごめん……ね……。」

謝っても謝りきれない。

泣いても泣ききれない。

口には出さないけど、ずっと我慢してくれてるんだよね……。


「勘違いしてる。」

「え…っ…?」

「取り敢えず……、何か飲む?」

「えっ??」

私は混乱する。

颯磨くんが何を言おうとしているのか、全然分からない。

「はちみつレモンでいい?」

え……?はちみつレモン……?

混乱する私をよそに、颯磨くんは続ける。

「もう歩道橋から飛び降りるなんてこと、しちゃ駄目ですよ。」

え……?急に何で敬語……?っていうか……!

そ、それって……!!

まさか、颯磨くんって、あの時の……!?

「キスまでしなきゃ、思い出さない?」

っ………………!!!!!!!!!!

颯磨くんの顔が、近づいてくる。

!?!?!?

「ごめん、冗談。」

「え、ええっ!?」

颯磨くんは、私から顔を離す。

「ま、待って!颯磨くんって、ま、まさか、あの時の……!?」

「やっと気づいてくれた?」

っていうことは、颯磨くんはずっと、気づいていたの……!?

『あの時って、どの時の?』

保健室登校初日、颯磨くんが前にそう言った意味が、やっと分かった。

「あの、あの、あの時の……キ、キス……って?」

「うん。いつか謝らなくちゃって思ってた。」

ますます分からない。

「あの時、日奈子はずっと自分を否定してて、僕が何を言っても駄目だと思ったんだ。」

確かにあの時はショック過ぎて、誰に何を言われても、駄目だったかもしれない。

「だから、キスした。」

え?

「えっと……、何を言ってるのか……分からない……です。」

「止めなきゃって思ったんだ。僕が何を言っても、キミは飛び降りてしまう。そう思ったから、他のことで頭をいっぱいにしたら、それどころじゃなくなったら、日奈子が飛び降りなくて済むかもしれないと思ったんだ。」

そ……、そうだったんだ……。

し、思考回路が、違い過ぎて……。

でも実際に、私はそれどころじゃなくなった。

あのキスがなければ……、私はどうなっていただろうか……?

「でも、だからってキスなんて……、ごめん。」

「お、驚いたけど、謝らなくていいよ。寧ろ、お礼が言いたい。ありがとう。」

そんな風に考えていてくれていたなんて、思わなかった。

「その時は、言えなかったこと、今から言わせて。」

颯磨くんが真剣な顔になる。

私は目が離せなくなる。

ずっと見ていたいと思ってしまったんだ。

「うん。」

「僕はさ、特進科Sに主席で入って、模試でも市内で1位を取って、皆から妬まれた。」

……?

妬まれたって……?

「1年生の夏くらいから、教科書は破かれるし、筆箱の中身は全部捨てられるし……。」

えっ………………。

「格好悪いけど、だんだん耐えられなくなって、それで、保健室登校になったんだ。」

そんな……。

特進科Sみたいな、頭の良いところでも、いじめ
ってあるの……?

「全然、格好悪くなんてない……!」

こんなことしか言えないのが、悔しい。

「ありがとう。」

そんな、お礼なんて。

「日奈子は……、主席の僕が嫌い……?」

そんな、嫌いだなんて……。

「嫌いなわけないよ。何でそれだけで嫌いにならなくちゃいけないの?颯磨くんは、頭が良いのも、颯磨くんの魅力だと思う。」

「っ……!あ、ありがとう。」

私は颯磨くんの、そういうところに好感を持つよ。

「大輔は、イケメンだろ?」

颯磨が言って、私はうなづく。

「女子にモテるから、他の男子からの反感を買ってさ。」

コミュニケーション能力の高そうな大輔くんが、
反感を……?

「大輔が言い返すと、それがエスカレートして、暴力事件になって、それで大輔は、精神的に、やられて、教室に戻れなくなったって。」

……あんな無邪気そうな大輔くんが……、悩んでいたなんて……。

「日奈子は、イケメンの大輔が嫌いか?」

私は首を振る。

「京についてはどうだ?あいつは、教室に行きたくても、体が弱くて、行けないんだ。そんな京のことが、嫌いか……?」

「ううん、嫌いじゃない。」

そんなの、ちっとも気にしていない。だって、みんなは私に優しくしてくれたから……。

「それと同じだよ。」

同じ……?

「僕らはみんな、大きはコンプレックスを、1つ持ってる。だからこそ、人の辛さが、痛いほど分かるんだ。だからみんな、日奈子のこと、嫌いじゃないよ。」

颯磨くん……。

「それに、コンプレックスは、その人の魅力でもあると、僕は思う。嫌いになんて、なるはずない。」

颯磨くんの、不器用な優しさに、ますます涙が止まらなくなる。

そんな私を、颯磨くんは優しく包み込んでくれた。
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