キミがくれたコトバ。
11



保健室に登校すると、京くんしかいなかった。

「おはよう。」

「あ、おはよう。」

「みんなは?」

「大輔くんは寝坊だと思う。颯磨くんは……、どうしたんだろう?風邪かな?」

そっか、昨日の今日で、颯磨くんに会ったら心臓がついていきそうになかったけど、休みと聞いて、少し安心している私がいる。

「そっか。」

「大丈夫かな……?」

京くんがそう言った時、保健室のドアが開いた。

「あっ、颯磨くんおは…………健吾…………?」

立っていたのは、颯磨くんじゃなくて、健吾だった。

人見知りの京くんは、そそくさとベッドへ戻っていった。

「颯磨って誰……?」

「え、いや、別に……。」

合わせる顔がないよ……。

あんなことがあったのに、何で健吾は普通なの?

この前の記事のこともあるし……。

身長のこと、健吾が新聞部の人に言ったんでしょ……。

「日奈子……ごめん!!」

健吾が頭を下げる。

「……はっ……!?」

ちょっ、何に急に。

「俺、あの時、本当おかしかったと思う。どうかしてた。」

そんな、今更言われても……!

「俺は、日奈子を外見で見てない!身長だって、可愛いと、マジで思ってる!」

そんな、
そんな嘘に、もう引っかかったりしないんだから!

「日奈子のこと傷つけたのに、逆ギレするとか、
本当、最低だよな、俺……。」

何?

なんか裏があるはず。

私に何を求めてるの……?

私は1歩引き下がる。

すると健吾は、私に1歩近づいた。

嫌……。

「帰って……。」

どうしたって許すことなんてできないよ……。

「何でだよ、本当ごめんって……!」

「帰って!!」

見てるだけで、思い出しちゃうんだよ……。

「帰らない。日奈子が許してくれるまで、帰らない。」

そんなの困る……。

「あの……!」

その時、誰かが健吾に後ろから、声をかけた。

「すみませんが、お引き取り願えませんか?」

「そ、颯磨くんっ……!」

「お前、誰だよ。」

「申し遅れました。水瀬 颯磨と申します。」

同学年にも関わらず、丁寧に対応をする颯磨くん。

「帰らねえ。俺、こんなことになるなんて思わなかったんだよ。日奈子が不登校になるなんて……。」

「思わなかったら、何を言っても良いと思ってるんですか?」

何だろう……、颯磨くん、凄く怖い……。

オーラがいつもと違う。

「そ、そうじゃねえけど……。」

「だったら何ですか?」

「何って……、だから謝ってるんじゃねえかよ。何で許してくれねえんだよ……。」

「それが謝る人の態度ですか?」

健吾、無理だよ。

颯磨くんは凄く頭が良いんだよ。

健吾に言い返せるはずがない。

だからお願い、引き取って……。

「は?」

「何を言っても、日奈子を傷つけたのは、事実ですよね?」

颯磨くん……。

「っ分かったよ!……帰るよ。」

「ご理解いただいて、光栄です。……それと、僕達は、『不登校』ではなく、『保健室登校』です。そこも、どうかお間違えなく。」

颯磨くんが一礼すると、健吾は保健室から出ていった。

扉が閉まり、健吾の気配が、完全に消える。

「颯磨くん、ありがと……、」

その瞬間、颯磨くんは、その場に座り込んだ。

「颯磨くん……!?大丈夫……!?」

「怖っ…………。」

颯磨くんが低い声で呟いた。

「颯磨くん……?」

「何でもない。大丈夫。」

そう言うと颯磨くんは、いつものように勉強道具を机に広げ、勉強を始めた。

「颯磨くん、本当にありがとう。」

颯磨くんが来てくれなかったら、今頃、どうなっていただろう……?

「別に。困ってたから、助けただけ。」

いつもの颯磨くんに戻っていた。

『怖っ…………。』

あれは、何だったんだろう……。

しばらくすると、京くんがベッドから出てきた。

「ごめん……、僕、何もできなくて……。」

「大丈夫だよ、心配してくれて、ありがとう。」

私がそう言うと、京くんは笑顔になって、窓の外を眺めた。

「あっ……!瞳先生が来るっ……!!」

京くんの声が明るくなる。

「京は、本当に瞳先生のこと、好きだなあ。」

颯磨くんが、からかうように、クスクス笑う。

「も、もう……!別に良いでしょ!」

そっか……!京くんって、瞳先生のことが好きだったんだ!

知らなかった。

もっと、皆のこと、沢山知りたいな。知れたらいいな。
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