キミがくれたコトバ。
12



「今日は、まだ帰らなくて良いの?」

放課後、私がいつまでも保健室に居座っていると、颯磨くんが言った。

授業が終わると、生徒は一斉に部活へ行くor帰る。

保健室登校の人は、皆が行動した15分後くらいに帰る。

そうすれば、知り合いに会わなくて済むから。

しかし私はその日、15分を過ぎても、保健室にいた。

それは……。

「うん。あの、私、颯磨くんに、勉強、教えてもらいたい。」

長いこと教室に戻っていないし、授業も受けていない。

だから、さすがに勉強をしないと、かなり遅れをとってしまっているだろうと思った。

「僕なんかで良いの?」

「良いに決まってるよ!というか、こんなこと頼めるの、颯磨くんしかいないよ。」

市で一番だからね!

「分かった。」

私は颯磨くんの向かいに座って、問題集を広げた。

「颯磨くんは、どの教科が一番好き?」

「どれも好きだけど、一番は数学かな。」

数学……!確かに、特進科Sだもんね!

「私も、数学が一番好き!」

得意ではないけど、一番やってて面白いと思える。

「そっか。良かった。」

颯磨くんが、ニコッと笑う。

っ…………!!!

な、何か今……キュンと……?
いやいや、無いって。

「答えはいつも1つっていうシンプルさが好き。」

颯磨くんらしいな。

「例えば、この問題はさ、」

「失礼します!!」

颯磨くんが何かを言いかけた時、保健室のドアが、勢いよく開いた。

「……け、健吾……!?」

そこには、健吾が険しい顔をして立っていた。

「お取り込み中でしたか?」

健吾が颯磨くんを、睨みながら言う。

「いや、別に。」

颯磨くんは、健吾と視線を合わせようとしない。

「なら良かったです。」

健吾……、やめて。

お願いだから、颯磨くんには迷惑かけないで……。

「日奈子、帰ろう。」

!?

「か、帰ろうって……!」

「もう1度、よく話し合った方が良いと思うんだ。俺、このまま日奈子とギクシャクし続けるのは、嫌だから。」

嫌って……、ギクシャクさせたのは、健吾の方でしょ?

「また傷つけるつもりですか?」

颯磨くんが言う。

「謝るって言ってんじゃねーかよ!」

健吾が喧嘩腰になる。

健吾って、小さい頃から諦めが悪いよね。

良い意味でも、悪い意味でも。

今回は悪い意味で。

『怖っ…………。』

颯磨くん、確かにそう言っていた。

だったら、今この瞬間も、本当は……。

「健吾、颯磨くんを責めるのはやめて。」

「は?お前、こんな奴の何処がいいんだよ。」

「颯磨くんは、凄く良い人だよ。」

健吾とは違って。

と、言いそうになって、慌てて抑える。

颯磨くんのこと、何も知らないのに、何処が良いのかなんて、言わないでよ……。

だんだん、腹が立ってきた。

どうして分からないの?

それは……、

私がちゃんと健吾と話していないからだ……。

私のせいで、颯磨くんが……。

「悪いですが、お引き取り下さい。」

「ううん、颯磨くん、今日は、健吾と帰るね。」

「えっ…………。」

やっぱり、ちゃんと話さなきゃいけないよ。

颯磨くんに、これ以上、迷惑をかけちゃいけない。

「ふんっ。」

健吾が勝ち誇ったような顔をする。

「ごめんね、颯磨くん。」

「別に。日奈子の好きにしたら良いよ。」

よく、『別に。』という颯磨くんだけど、今日の『別に。』はなんか……。

……怒ってる……?

「行こう、日奈子。」

「う、うん……。」

私は健吾について行った。
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