キミがくれたコトバ。
12.5



「行こう、日奈子。」

「う、うん……。」

2人が仲良さそうに保健室から出ていくのを、僕はただ見ていることしか出来なかった。

は……?

何でだよ……。

僕は目の前にあった、メモ用紙をぐしゃぐしゃに丸めた。

あの2人、幼馴染みなんだよな……。

そして、以前は恋人同士だった……。

僕に勉強を教えて欲しいって言ったのは、誰だよ……!

まだ何も教えてないのに……。

それとも、僕なんかより、あいつの方が……?

手に力が加わり、持っていたシャープペンの芯が、5ミリ程折れた。

くそっ……。

意味分かんねぇ……。

あいつに酷いこと言われたんじゃねぇのかよ。

あいつのこと、嫌がってたんじゃねぇのかよ。

なのに……、何を仲良く帰ってるんだよ……!

「何でだよ……。」

これは多分……、嫉妬だ……。

こんな面倒な感情、抱くつもりなんてなかった。

恋とか愛とか、複雑で美しくないものに悩まされるなんて……。

「颯磨くん。」

「わっ!京……!」

び、びっくりした……。京、いたのか。

「僕がいることに気づかないなんて、相当同様してるんだ?」

図星で、何も答えることができない。

「颯磨くんこそ、日奈子ちゃんのこと、好きみたいだね。」

っ………………!

本当に、好き……なのか……?

恋って、こんなものなのか……?

「恋って、どんな感じ?」

京が不思議そうに聞く。

「べ、別に、恋なんて……!それに、京なら恋の感覚、分かるだろ。僕に聞かなくても。」

「僕は恋してるわけじゃないよ。」

えっ??

「ふふっ。颯磨くんって、そっちのことについては本当に鈍いんだね。」

に、鈍い……。

そんなこと、初めて言われた。

どちらかというと、『鋭い』とよく言われる方だから。

「瞳先生は憧れだよ。」

憧れ……?

「『好き=付き合いたい』っていうわけじゃないんだよ。好きには色々な好きがあって、僕の『好き』は『憧れ』の好き。」

全然分からない……。

『好き』の感情なんて、そんなにいくつも知らない。

いや、もしかしたら、一つも分かっていないのかも……。

「でも、颯磨くんが抱いてる『好き』は……、」

「ストップ!」

僕は京が言おうとした言葉を遮った。

「それ以上は、言わないで……。」

それ以上言われたら……、気づいてしまう。

「それ以上言われたら……、自分の気持ちに、もう嘘をつけなくなる……。」

「そっか。分かった。」

「ごめん……。」

「そんな、謝ることじゃないよ。自分で認めることが、一番大切だと思うから。」

認める……か。

「じゃあ僕、帰るね。」

「うん。また明日。」

扉がパタンと閉まる。

僕はよく、精神年齢が高い、大人、と言われるけど、京の方が、よっぽど大人だ。

窓の外を見ると、日奈子と健吾という奴が、並んで歩いていた。

見ていられない。

今すぐ引き裂いてしまいたい。

僕だったら、絶対に傷つけたりしないのに……。

こんな風に思ってしまう僕は、まだまだ子供なのだろう。
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