キミがくれたコトバ。
16



ピーンポーン

家のインターフォンが鳴った。

今日は休みの日。

宅配便かな?

モニターで人を確認する。

「はい。どちら様でしょうか?」

「日奈子?俺だ。健吾。」

はっ……!?け、健吾!?

「何の用?」

どうしても、冷たい言い方になってしまう。

本当はまだ少し、許せていない部分もあるんだ。

「折り入って、話があるんだ。」

「私は話したいことは無いよ。この前、許して、それでもう済んだでしょ。」

そう、私達の関係は、もうあれで終わり。

「これ以上、話すことなんて無い。」

「うん。確かにそうだ。だから、日奈子がそう言うと思って、来たんだ。」

……意味不明。

「とにかく、開けてくれないか?」

一瞬目迷ったけれど、開けずにずっと健吾がここにいて、せっかくの私の休みが台無しになるのは嫌だと思ったので、渋々、玄関を開けた。

ガチャ

「日奈子。……ありがとう。」

え、何?照れてるの……??

やっぱり開けなきゃ良かったかな……。

「話って?長くなる?上がる?」

健吾は幼馴染みで、昔はしょっちゅう家に来ていたから、上がらせるのに、抵抗はあまり無い。

「今、親いる?」

「ううん。2人とも仕事。」

「じゃあ、上がる。」

『じゃあ』って何よ!『じゃあ』って!

颯磨くんだったらきっと……、

『そう長くならないから、ここで良いよ。』

あるいは……、

『多分長くなると思うんだけど、日奈子は立ったままで大丈夫?大変なら、上がらせてもらってもいいかな?』

って言うんだろうな……

って!駄目だ……。

また颯磨くんのこと、考えてる……。

「何か久しぶり。日奈子の家。」

私達はリビングにある机に椅子を並べて、向かい合わせに座った。

「それで?話って何?」

私は単刀直入に聞く。

あまりダラダラと話を続けたくなかった。

「もう1度、ちゃんと日奈子に謝りたいと思って。」

え……?

「もういいって。この前、許したでしょ?」

それで終わり。

終わりだったんだよ。

「違う。俺は日奈子とまた……、幼馴染みだった頃の様な関係に戻りたい。」

「そんなの、無理に決まって……!」

「それはまだ俺を完全に許せてないから無理なんだろ?」

う……、まあ、そういうことになるけど……。

「ただ口で謝るだけじゃ駄目だってことも、十分に分かってる。だから……、どうしたら許してくれる?」

そんな……、そんな完全に許すなんて無理に決まってるでしょ!

だって……!

「健吾……、俺なら私を傷つけないって、そう言ったじゃん……。なのに裏切られたんだよ?あれは嘘だったの……?」

「嘘じゃない。」

「じゃあ何で!?」

「あの時は、嘘じゃなかった。」

は……?

「ちゃんと守ろうって思ってた。でも……、これを言ったら、言い訳になるかもしれないけど……、」

健吾の顔が歪む。

「ある人から言われたんだ。」

ある人……?

「今度、日奈子とのことを、新聞部が調査しに来るって。その時、不満が何も無いって答えるのは記事的に面白くないから、身長のことを言えって言われたんだ。」

え……。何それ……。

「ごめん。確実に言わないべきだったよな……。」

「誰に!?誰に言われたの!?」

「それは俺も分からない。」

分からない……?

「直接言われたわけじゃないから。なんて言うか、伝言ゲームみたいに、間接的に伝えられただけで。」

「そう……。でも、その後、私に近づくなって言ったよね……?それも誰かに命令された事なの?」

健吾は首を降る。

「あれは違う。ごめん。俺、日奈子に振られて焦ってたんだ。せっかく長年の片想いが叶ったのに、こんなにも早く終わるなんて、思ってもみなかったから。」

でも……、

「でも、だからって、あの言葉は酷すぎだった。ごめん。」

「わ、分かった……。いいよ……。」

「俺は本当は、あと5cm欲しいだなんて、これっぽっちも思ってないよ。」

どこまで本当なのか、全く信じられないけど。

「日奈子……。俺は今でもお前のことが好きだ。今は付き合えないって分かってる。でも……、いつか日奈子が本当の意味で俺を許してくれたら、その時は、考えてくれないか……?」

「ごめん。」

直ぐに言葉が出てきた。

少しくらいは、躊躇うべきだったのだろうか。

「それは……できない。」

もし健吾のことを許せても、もう一度付き合うことはできないと思った。

「私……、他に好きな人がいるから。」

何故そう言ったのかは分からない。

自分の中でいい加減、認めたかったのかもしれない。

「分かんないけど、今回は、いつもとは違う気がするの。」

「それって……、もしかして……、颯磨って奴か?」

「そうだよ。」

何故か、さらっと言うことができた。

「あいつはっ……!」

「凄く良い人だよ。私のこと、何度も助けてくれた。身長のことも、ちゃんと受け入れてくれた。」

小さくて可愛いとか、そんな言葉じゃなくて。

嫌じゃないよって。

嫌いじゃないよって……。

「身長のことで健吾と別れた記事のね、再発行が決まってたんだって。」

「そ、そうだったのか……?」

「それをね、颯磨くんが止めてくれたんだ。自分がリスクを背負ってまで、止めてくれたんだ。」

初めてだった。

それまでは、自分が相手よりも先回りして、忖度していた。

少なくとも、そういうつもりでいた。

でも……。

颯磨くんは、私のために、色々なことをしてくれた。

だから、颯磨くんの前だけでは、自分を取り繕わないでいられた。

「それも、私が傷つかないように、私に気づかれずに全部やったんだよ。そんなことされたらさ……、誰だって勘違いくらい、するよ……。」

「……そっか。」

健吾が小さくため息をついた。

「なんか悔しい……!」

えっ?

「何もできなかった自分に腹が立つ。」

いや、何もできない以前に、傷つけたじゃないですか。

「俺、諦めないから!」

え、ちょ、何でそうなるの……。

今、完全に、そういう雰囲気じゃなかったよね?

「これからは、罪滅ぼしの意味も込めて、俺も日奈子を守るからさ……!」

「あ……うん。そう。……ありがとう。」

何と答えたら良いのか分からず、曖昧な返事をした。
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