キミがくれたコトバ。
17.5



あいつ……。

今日の朝、何であいつと登校してたんだ……?

放課後、みんなが一斉に部活動へ行き、それから日奈子や大輔は帰るが、僕はいつも1時間くらい残って、勉強をしている。

でも、今日は勉強なんて手につかなくて……。

何故、日奈子とあいつが一緒に登校してきたのか……。

考えられる可能性としては2つある。

1つ目は、あいつが無理矢理連れてきたパターン。

なんかあいつ、日奈子に本気になってるし。

まあ、まだ好きなんだろうな。

2つ目は、考えたくなかった。

あいつが日奈子を迎えに来て、日奈子もあいつに好意を抱いていたから、喜んで一緒に来た。

もともと日奈子は、あいつに酷いことを言われて、別れた。

でも、あいつは謝ってるから、日奈子も許すかもしれない。

足震えてたけど……。

でも、だとしたら、あいつと日奈子は付き合うのか……?

そしたら僕は……。

って!……やっぱり恋なのかよ……。

こんな気持ち初めてで、全然分からない……。

あー!もう!

ごちゃごちゃ考えていて、勉強が捗らないから、今日はもう早いけど帰ろう。

スクールバッグをもって、下駄箱へ向かう。

何だか今日は、歩調のリズムが少し速い。

このままいくと、いつもより5分は早く家に着きそうだ。

しかし、そんな僕のその予想は外れた。

「水瀬颯磨くん……ですよね?」

知らない男子に呼び止められた。

僕の名前を一方的に知っているみたいだし、この顔つきからすると、今日は家に着くのがいつもより15〜20分くらい遅くなるだろう。

僕は心の中で溜息をついた。

あまり良い予感がしない。

「どちら様ですか?」

記憶をいくら辿っても、今目の前にいる人の顔は浮かんでこない。

もしかしたら忘れているだけかもしれないので、一応聞いておく。

「どこかでお会いしましたか?」

「いえ、全くの初対面です。」

やっぱり。

「どうして僕のことを?」

「それは『日奈子』ちゃんが関係しています。」

え……?日奈子が?

でも僕はここで一つ、思い当たる点があった。

「もしかして……、明人さん?」

明人さんの話を、以前日奈子から聞いたことがあった。

「流石、緑風高校首席。話が早い。」

「それで、僕に何か用ですか?」

「首席なら、多少は察してるんじゃないですか?」

首席だからって、何でも判るわけでは無い。

僕はエスパーじゃない。

でも……、なんとなく予想してた。

「あなたが裏で手を回してるっていうことですか?」

僕が言うと、彼は目を見開いた。

「まさかそこまで分かっているとは。手強いな。」

手強い?

「僕の野望は、日奈子を人生のどん底に突き落とすこと。」

何言ってるんだ、こいつ。

「手伝ってくれませんか?」

僕は呆れたような顔で彼を見る。

「そんなこと、するわけないじゃないですか。」

「そう来ると思った。」

当たり前だろ。

他に、どう来るというんだ。

「健吾さんも最初はそう言ってましたよ。」

やっぱり、明人ってやつ、健吾にも何か吹き込んでいたのか。

きっと、新聞部を動かしたのもこいつだ。

今までは予想でしかなかったけど、確信がついた。

「僕は健吾とは違います。」

「それは分かっていますよ。健吾さんより、遥かに頭が良い上に、メンタルも強い。」

本当に何言ってるんだ、こいつ。

「どうして日奈子にそんなことをする?」

動機が分からない。

だって前に付き合ってたんだろ?

振ったのもお前だろ?

日奈子を恨む要素なんてあるか?

「流石の首席でも、そこまでは分かりませんよね。」

こいつの話し方、いちいち鼻につく……。

「中学生の僕は、ある友達と、賭けごとをしていました。」

話し始めた明人という奴は、何処か一箇所を見つめて、しきりに睨んでいる。

「……どっちが日奈子を落とせるか。」

は……?

「2万円という大金が賭かっていたし、絶対に負けるわけにはいきませんでした。」

2万円……?中学生にしては高いな……。

「僕はあらゆる手を利用して、勝利し、2万円を手に入れた。でも……!それは友達の罠だったのです。」

賭け事に勝つことが、罠……?

「日奈子は当時から飛び抜けて身長が低く、きっとそのせいで彼氏ができなかったはず。」

明人がフッと笑う。

「そんなことない。」

僕の反論を無視して、彼は続ける。

「僕は当時から、頭も良く、顔も平均より良かったから、女子から一番の人気を誇っていた。」

それ、自分で言うことかよ。

酔ってんな。

「そんな僕が日奈子と付き合って、人生のどん底に突き落とされた。最初はまあ顔も可愛いし、良い子だし、良かったけど、それから僕のいじめが始まった。」

いじめ……?

「一緒に歩いてると親子みたい。とか、ロリコンとか、色々言われたんだ。」

なんだ、それ。

「そのくらい、無視すればいいだろ?」

僕が言うと、明人の顔つきが変わった。

「考えてみろよ!それまで王子様キャラだった僕が、何で……!」

身振り手振りが大きくなった。

感情、高ぶってんな。

「悔しかったし、色々な人を恨んだ。特に日奈子。」

いや、恨むのはいじめた奴らだろ。

「で?話はそれだけ?早く帰りたいんだけど。」

「これを聞いて、何とも思わないんですか?」

「別に。強いて言うなら、お前の友達、最低だな。」

そう言うと、明人は少しだけ笑った。

「健吾くんはこの辺でブレてきたんですけどねぇ〜。首席は同じ手ではいかないか。」

ここでブレるって……。

アホか。

やっぱりあいつに日奈子は任せられない。

僕が守らなきゃ。

「ここから僕が可愛そうだった話を続けて、日奈子をある程度酷いと認識させて、新聞部に身長が嫌だと言うように、心理学を使って健吾くんには日奈子を裏切るように仕向けたんですけどね。」

何言ってんだ、こいつ。

「でも、自分より頭がいい人に心理学を使ったところで、成功する見込みは薄いし。」

明人は、一呼吸置いてから、続けた。

「あなたにはまた他の策を考えます。」

何を言われても、何をされても、僕は日奈子を絶対に裏切るつもりはない。

命さえも賭けられる。

「覚悟しておいてくださいね、首席。」

覚悟もなにも、僕はこいつに動じるつもりは初めから、さらさら無い。

「それと、もう一つだけ。」

明人がにっこりと笑った。

しかし、瞳の奥では、睨んでいるようにも見える。

「模試の事ですが、市内で1位はあなたですけど、2位はこの僕です。」

えっ……?

「まだまだ貴方との差はありますが、僕が貴方を抜きしだい、心理学の手を真っ先に使わせていただきますね。」

いや、はっきり言って、勉強面では、明人に負ける気がしない。

「それではまた。」

僕に有無を尋ねる前に、彼は僕の前から消えた。

これは……、宣戦布告ということか……?

そういうことだろう。

日奈子のことでも、僕は負ける気がしない。

僕が絶対、ちゃんと守る。
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