キミがくれたコトバ。
18



「みんなおはよう!!」

朝、珍しく大輔くんが寝坊せずに学校へ来た。

「大輔くん、おはよう!そんなに慌ててどうしたの?」

「聞いて驚くなよ!なんと今日、この学校に!テレビ局が来ま〜す!!」

えっ!?

「テ、テレビ局ぅ!?」

「テレビ局っ……!?」

京くんと私の目が丸くなる。

ただ1人、颯磨くんだけが、平然としていた。

「知ってる。」

ええっ!?

そっちの方が驚きだ。

どこからその情報を……?

「なぬ!?お前、何故それを……!」

「先週くらいかな?風の噂で。」

「っくー!ムカつくムカつくムカつく!!俺が1番だと思ったのにー!」

大輔くんが颯磨くんの肩を、ポカポカと殴る。

「でも大輔くん、どうしてテレビ局が来るの?」

大輔くんに出番を与えるように聞いた。

「それがな!何だか分かんねーんだ。」

ガクッ

分かんかいのか。

「なんか、この学校の学力が、数年でかなり上がったから、どんな勉強をしてるのか、調査しに来るみたいだよ。」

なぬ!?

何故、颯磨くんがそこまで知ってるの!?

「何だよそれ!情報早すぎだろ!」

大輔くんも、悔しさを通り越して、驚いている。

「凄いね、颯磨くん。僕なんて何にも知らなかったのに。」

「私も何も知らなかった。」

「まあでも、保健室に来ることはないんじゃない?」

「だよなー。」

大輔くんが残念そうにしている。

「格好良い俺がスカウトされて、有名になるチャンスなのに。」

凄いな、その自信。

確かにイケメンだけど。

「今日だけクラス戻ろっかなー。」

そんなことまで言っている。

「僕は映りたくないな……。」

京くんが言った。

何だか騒がしい1日になりそうです。

─そして─

お昼頃、本当にテレビ局の人が学校に来て、取材を始めた。

私達は保健室の窓から、その様子を眺めていた。

─放課後─

テレビ局の取材が終わったようで、私達も何故がなんとなくホッとし始めた時……、

コンコン

保健室のドアがノックされた。

「はーい。」

瞳先生がドアを開けると、そこには大勢のスタッフさん達が……!!

京くんは、慌ててベッドに潜り込んで、カーテンを閉めた。

な、何……?まさか……?

いや、そんなわけ……。

「おおおおお!やっとチャンスが来たぜ!」

大輔くんはやる気満々だ。

私も少し緊張してきた。

テレビに映るのかなっ……?

颯磨くんは相変わらず、勉強している。

「颯磨くーん。」

瞳先生が颯磨くんを呼んだ。

「ちょっとテレビ局の方がね、颯磨くんにいくつか質問をしたいみたいなんだけど、答えてくれるかな?」

颯磨くんに……!?質問……!?

っていうか、大輔くんは悔しいんじゃないのかな……?

あんなにテレビ局に期待していたし……。

しかし、大輔くんの方を見ると、とても嬉しそうにしていた。

「大輔くん……?何でそんなに嬉しそうなの?」

「だって!今から俺がデビューへの第1歩を踏み出すからだ!!」

「でも、インタビューされるのは颯磨くんだよ?」

「かー!分かってないな!こういうのは、主役より脇役の方が将来売れるんだよ!よって、俺はスターになる。決定!」

脇役って、ドラマじゃないんだから。

「本番入りまーす!」

スタッフの声が保健室に響き渡る。

「スタート!」

「最後は、こちら!保健室を取材したいと思います!なんとこちらには、全国模試で毎回市で1位を取っている、スーパー高校生がいるとか!では、行ってみましょう!」

ガラガラガラ

保健室のドアが開く。

うぅ……緊張……。

私がインタビューされるわけじゃないのに。

「こんにちはー!今日ここに、全国模試が、市内で1位の子がいると聞いたのですが……。」

瞳先生が、リポーターに聞かれる。

「はい、こちらです。」

その瞬間、颯磨くんの周りに、沢山のテレビカメラが集まった。

「おおおー!皆さん!こちらが全国模試、市内1位の水瀬颯磨さんです!」

颯磨くんは、いつもと変わらず真面目な顔で、挨拶をする。

「全国模試、市内1位。秘訣は何でしょうか?」

「予習と復習を毎日きちんと行うことです。それ以外にも、あらゆるところから、沢山の情報を手に入れる為に、常にアンテナを張っていることですね。」

颯磨くんが、淡々と、たまにニコッと笑いながら、受け答えをしていく。

こうみると、凄く格好良いなって思う。

昔の私だったら、とっくに王子様だと思って接しているだろう。

「では、こちらの颯磨さんのお友達にも、お話を聞いてみましょう!」

大輔くんが、テレビに映らないところで、ガッツポーズをした。

「颯磨さん、普段はどんな子なんですか?」

「僕からすると、何でも知っていて、常に勉強しているイメージですね。でも、それだけではなくて、人間性もあって、凄く尊敬しています。」

大輔くん、凄い……!

初テレビなのに、流暢に話してる……!

「では、こちらの方にも聞いてみましょう。」

その瞬間、私の周りにテレビカメラが集まった。

え?え?え?

私!?

予想もしていなかった事態に、戸惑う。

「颯磨さんは普段、どんなイメージですか?」

えーっと、えーっと!

「とても優しくて、思いやりがあります。あと、毎日、景色を眺めていて、そこから、学校で学ぶこと以外の情報も集めています。そして凄く、頭の回転が早くて、完全無欠なイメージです。」

言い終わった後、颯磨くんと一瞬目が合った。

こ、鼓動が……!

って!

え?

これは何の鼓動!?

緊張……ではないような……。

「そうなんですか〜!頭が良いだけではなく、人柄も凄く良いんですね〜!」

スタッフさん達も、だんだんと颯磨くんを尊敬し始めて、取材が終わる頃には颯磨くんは……、

「以上、保健室から、全国模試、市内1位の王子、水瀬颯磨さんでした!」

『王子』なんて呼ばれていた。

「はい、カット!」

リポートが終わる。

「ありがとうございましたー!」

スタッフがそう叫んで、瞳先生と、何やら話し込んでいる。

そして数分すると、テレビ局は、保健室から出ていった。

その後、今度は校長先生が入ってきた。

「今日はありがとう。君のおかげで、我が校の評判も、一層高まりそうだよ。」

「いえ、そんな。こちらこそ取材していただいてありがとうございます。」

颯磨くんが丁寧に受け答えをする。

「そこでなのですが、是非水瀬くんには、本校のパンフレットの表紙になって欲しいのだが、大丈夫だろうか?」

パ、パンフレットの表紙!?

「校長先生!僕はどうでしょうか!?」

大輔くんが手を挙げて言う。

「そうだね。君には是非、表紙裏の大きな写真に映ってもらいたいよ。」

「本当ですか!?」

大輔くんの目は、キラキラ……いや、ギラギラ輝いている。

「ありがとうございます!!」

良かったね、大輔くん。

「それで水瀬くん。表紙を、やってくれないか?」

颯磨くんが少し考え込んでから言う。

「僕は普段、クラスに行ってないため、授業にも参加していません。そんな僕が表紙になったら、良く思わない生徒が多いのではないでしょうか。」

た、確かに。

コメントが的確すぎる……!

「そうだな。それもあるかもしれない。でも、その逆もあるはずだ。今、クラスに打ち解けていない子や、授業についていけない子、そんな子でも、やればできるっていう示しにもなると思う。このご時世、どの子を選んでも、不平不満は必ず出る。それは仕方の無いことだ。でも、希望を誰かに与えられるのは、限られた人しかいない。それが君だよ。」

校長先生、良いこと言うなぁ。

「あの、私も、颯磨くんから沢山の希望をもらいました!颯磨くんにはその力があると思います!きっと、希望をもらえる人が、沢山いると思います。」

ついつい口から言葉が漏れてしまった。

私、何言ってるんだろう……!?

でも、言っておきたかった。

本当は、校長先生に言いたいんじゃなくて、颯磨くんに言いたかった言葉なのかもしれない。

「やっぱり君もそう思うか。」

「はい!」

また、颯磨くんと目が合う。

今度はニコッと微笑むことができた。

「っ……。分かりました。やります。」

颯磨くんが、何かを決心したように、鋭い瞳で校長先生を見つめながら、そう答えた。

「そうかそうか!ありがとう!!いや〜、助かる!!」

やっぱり凄いね、颯磨くん。颯磨くんはいつだって真剣だ。

ちゃんと自分の信念を持っていて、間違えない。

だからかな?

一緒にいると、希望をもらえるだけじゃなくて、凄く……凄く安心するんだ。
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