キミがくれたコトバ。
19



テレビ局が来てから1週間後、颯磨くんのポスターは、学校の一番目立つ所に大きく張り出された。

ちなみに、大輔くんは、テレビ局から名刺を貰ったみたいで、凄く喜んでいた。

そして何故か今日は早く目が覚めてしまった為、みんなが登校する、1時間程前に、登校した。

保健室のドアを開けると、一番乗りではなかった。

瞳先生……ではなく、颯磨くんがいた。

「おはよう。」

「おはよう。今日は日奈子も早いんだね。」

日奈子も……??

「おっは〜!俺もいるよ!珍しく早く目が覚めちまってな〜!」

ベッドのカーテンが勢いよく開き、そこから大輔くんが出てきた。

名刺を貰ったことと、パンフレットの表紙裏に堂々と載ったことが、余程嬉しいのだろう。

いつもよりもう少しテンションが高い。

「日奈子ちゃん、おはよう。」

それから京くんも、いつも寝ているベッドから出てきた。

「京くんおはよう!」

凄い。

今日はもう全員揃ったんだな。

珍しい。

しばらくすると、瞳先生がやってきた。

「あら〜、みんな今日は早いのね〜!」

「ひとみん、おっは〜!な〜んか今日は早く目が覚めたんだよな〜。」

「そうなのね〜!いつも寝坊の大輔くんが、普通の時刻に登校するどころか、早く来るなんて、ビックリよ。」

瞳先生が微笑む。

いつもと同じ。

ここにいると、本当の自分になれるんだ。

良くも悪くも、本当の自分に。

だからこそ、私は考えもしなかった。

その生活が、今日で終わってしまうなんて……。

朝は時間が経つのが早い。

話しているうちに、もう、みんなが登校してくる時間になってしまった。

保健室の窓から、みんなが登校してくるのが見える。

みんなからしたら、保健室なんて、怪我をしたり、体調が悪くなった時に行くだけの、ちっぽけな存在なのだろう。

でも……、私にとっては……、

「おはようございまーす!」

勢いよく保健室のドアが開き、数人の女子が入ってきた。

「あら〜、どうしたの?怪我?元気そうだけど?」

瞳先生が、優しく対応をする。

「何処も悪い所はありません!強いて言えば、胸の奥が……痛いんです!」

1人の女の子が言う。

「そう、これはきっと恋……!」

「私の王子様は何処かしら〜??」

なんか凄い……。

キャラが濃い……!

「あらあら。王子様?それより貴女達、特進科でしょ?」

瞳先生が聞く。

「はい!特進科Sです!」

えっ……?

特進科Sって、確か1クラスしかないよね?

ってことは……、颯磨くんと同じクラスの……?

「授業は大丈夫なの?」

「大丈夫です!保健室へ行く為に、早めに登校してきたので!」

「ところで先生、王子は何処ですか!?」

「王子?何のことかしら?」

瞳先生が困った様な顔になる。

するとその瞬間、

「あ!王子発見!!」

1人の子が、颯磨くんを指さして、走って来た。

数人だった女子は、いつの間にか、特進科A、国際コミュニケーション科、普通科も加わって、数十人になっていた。

そして、その数十人が、一気に保健室に入って来る。

そして、颯磨くんの周りに集まる。

「キャー!王子ー!!」

颯磨くんの近くにいた私は、案の定、大勢の人に跳ね飛ばされる。

「何、あんた!邪魔なんだけど!」

誰かがそう言い、私は数十人の群れにに跳ね飛ばされた。

そして、床に倒れ込んだ瞬間、

腕に激痛が走った。

「日奈子!!」

颯磨くんの声が、微かに聞こえた様な気がした。

「王子〜!おはよう!」

「今日も格好良い!」

「本当は私、ずっといいなって思ってたんだよ!」

あれ……?

先日、颯磨くんの悪口言ってた子もいる……。

「日奈子ちゃん、大丈夫?」

大輔くんに声をかけられた。

腕が痛い。

何かが変だ……。

何これ……。

「うん、大したことないから、大丈っ……」

「キャー!普通科の王子もいるわ〜!」

私が言い終わらないうちに、これまた数十人の女子が、大輔くんの周りに集まった。

「ちょっと、邪魔なんだけど!!」

私はまたもや跳ね飛ばされる。

そして再び、腕に激痛……。

「格好良い〜!」

「私は颯磨くん派だなぁ!」

「え〜、私は大輔くん派〜!」

「日奈子ちゃん、大丈夫……?」

投げ飛ばされた私に声をかけてくれたのは、京くんだった。

「うん、大丈夫……。」

「じゃないよね。」

「あ……うん。なんか腕が……。」

「腕……!?それは大変……!瞳先生〜!」

京くんが瞳先生を呼んでくれた。

「どうしたの?日奈子ちゃん。」

「あの、腕が痛くて……。」

「腕?ちょっといいかな?」

瞳先生が、その場で色々な検査を始める。

「うーん、多分打撲ね……。でもかなり重いわ。もしかしたら、骨折も有り得るかもしれないわね……。」

えっ……?こ、骨折……?

「とりあえず、応急手当をしておくわ。でも帰ったら必ず病院へ行ってね。」

「はい……。」

病院……。

そんなに重いの……?

どうしよう……。

「ほらほらみんな!授業が始まるわよ!早く教室へ行きなさい。」

瞳先生が、状況を察知して、そう言ってくれた。

「え〜、颯磨くんと大輔くんはクラスに戻らないのに、私達は戻らないといけないんですか〜?」

こういう時、絶対屁理屈言う子、いるよね……。

瞳先生も、困った顔をしている。

すると、大輔くんが言った。

「俺、頑張ってる子って素敵だなって思う。特に授業とか真面目に受けてる子はタイプだな。うん、スゲー好き。」

その瞬間、大輔くんファンのみんなが、一斉に保健室を出た。

「授業受けなきゃ〜。」

「私、授業、大好きなんだ〜。」

「私も〜!」

しかし、颯磨くんファンの子は、その場を離れない。

すると、颯磨くんが言った。

「僕、そういう真面目に勉強しない人、物凄く嫌い。」

そ、颯磨くん……。

「ここに来るやつも、居座る奴も大嫌い。」

さすがに言い過ぎなのでは……?

しかし……。

「キャー!クールな颯磨様、格好良い〜!」

え?

「授業行こー!」

「待って〜、私も行く〜!」

「王子には、絶対服従だからね〜!」

そして、残りの全員が、保健室から去っていった。

授業開始のチャイムが鳴り響く。

「助かっちゃったわ〜。」

瞳先生が胸をなで下ろす。

「俺、ああいう対応には慣れてるし。王子様キャラ演じられて、楽しかったっすよ!」

さ、さすが、大輔くん……!

慣れてるんだ……!

「颯磨くんもありがとね〜。」

「僕は別に。大輔の真似をしただけです。」

え?

その場にいる、全員の目が点になる。

「俺の真似……?」

いや、正反対のことを言っていたような……。

「颯磨、本気で言ってんのか?」

対応に困る大輔くんを前に、颯磨くんは満更でもなさそうにしていた。

「そ、そうか。」

颯磨くんって、そういうところ疎いよなぁ。

他は全部、鋭いのに。

「それより日奈子、大丈夫か……?」

颯磨くんが心配そうに言う。

「そうだそうだ日奈子ちゃん、腕大丈夫!?」

大輔くんも、そう言った。

「あー……、何か打撲だって。もしかしたら骨折かも。」

「骨折……!?」

「可能性は低いけど、それはあるわ。日奈子ちゃん、病院、宜しくね。」

瞳先生も心配そうに言ってくれた。

「はい。分かりました。」

それにしても、なんか色々と災難だな……。

これが、悪夢の始まりだった。
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