キミがくれたコトバ。
19.5



「水瀬、教室に戻って来ないか?」

うん。

きっとこのタイミングで担任の先生から言われると思っていた。

「それはまだできません。」

僕は答える。

「確かに、君の事情は分かるよ。」

いじめのことを、先生は知っている。

直接言ったわけではないけれど、瞳先生から聞いているのだろう。

「でも、もう君を悪く思っている人は少ないと思うし、むしろ人気者になったんじゃないのか?」

人気者……。

そんなわけない。

人間はいつもそうだ。

直ぐに立場を変える。

信用なんてできない。

油断したら、またいつか裏切られる。

「お願いだ水瀬!君が戻ってくれば、自自身にもメリットは沢山あるはずだ。」

メリット……?

そんなの無いですよ……。

「言いたくない話だがな、保健室にいたら、もしかしたら、君は迷惑な存在になるかもしれない。」

先生の表情が、険しくなる。

「保健室っていうのは、基本静かな場所だ。そこに君のファンが集まると、うるさくなるだろ?瞳先生も困るんじゃないか」

「分かってます。」

分かってる……。

そんなこと、少し考えれば、いや、考えようとしなくても考えられる。

だからこそこれは……、僕の我儘なんだ。

人生で初めての、我儘。

「あと……、腕を怪我した子がいたそうじゃないか。」

それは、ある意味、他人の口から一番聞きたくない話題だった。

「その子も許してくれてはいるものの、治療費だってかかるんだ。もし後遺症を残したら、君は責任を取れるか?」

「取れません……。」

そんなのだって分かってる。

ちゃんと分かってる。

実際のところ、この数日で、ずっとずっと考えていた。

クラスに戻ることを。

日奈子を守ると誓ったのに、あれほど大事なのに。

傷つけたくないのに……。

それなのに、その日奈子を、自分のせいで傷つけた。

それが本当に許せない……。

悔しくて悔しくて……。

ただ一つだけ守りたい。

命をかけてでも、傷一つ付けたくない。

それが僕の信念というか……。

でも、だったら答えはとっくに出ているはずだった。

日奈子をずっと傍で見ていたい。

君は他のみんなとは違う。

いつも、どんな時でも真っ直ぐで美しい。

ずっと眺めていていたくて、絶対、守りたくて……。

でも、保健室にいて、日奈子を傷つけることになるんだったら……。

「分かりました。クラスに戻ります。」

こういうのが正解だって分かってた。

先生にとっても、日奈子に取っても。

だから……、

そう言うしかなかったんだよ……。
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