キミがくれたコトバ。
21.5



どうして、こうなった……?

分からない。

何度考えても。

僕はただ、日奈子の為に……。

それが、余計なお世話だったのか……?

というか、日奈子は……、ずっと京のことが好きだったのか……。

知らなかった……。

『私ね、他に好きな人がいるんだ。同じ保健室登校の子で。あ、でも大輔くんじゃないから安心して。』

僕と大輔以外の、保健室登校者といったら、京しかいない。

あんなに大勢の前で、好きな人を白状させてしまった。

また、日奈子を傷つけた。

失恋だ。

多分。

こういうことを失恋というのだろう。

普通にしているが、かなりショックを受けている。

でも、京も大切な友達だ。

快く、2人の幸せを願おうと思う。

でも、そっか……。

日奈子はもう、僕のことが嫌いか、多分。

だから、僕がベッドに寝ていることを女子達に教えたのか……。

『私は王子のこと、なんとも思ってないよ。好きでもなんでもない。ただ、同じ保健室登校だっただけ。それだけだから。』

嫌いだとは言われていない……。

だけど、『王子』と呼ばれた……。

女子の中でも、日奈子だけは僕のこと、『王子』じゃなくて『水瀬 颯磨』として見てくれていると思っていた。

違ったんだな……。

「おや〜?主席。悩み事ですか?」

はっと我に返った。

「明人……。」

「覚えてくださったんですね。流石、主席。」

いや、これだけキャラが濃ければ、主席じゃなくても覚えてるだろ、普通。

「用件は何だ?」

「ふふふふふ。日奈子と、上手くいってないようですね。」

「またお前が裏で手を引いてるんじゃないかって、思ってたよ。」

テレビ局が来た時点で、少しは疑っていた。

「なるほど。鋭いですね。で?どのように手を引いていたとお思いで?」

不気味なほど楽しげに、明人は続けるが、その様子にも、だんだんと慣れてきた。

「テレビ局に僕を取材させて、女子達にも何か吹き込んだんだろ?」

それじゃなきゃ、僕があんなに一気に人気を集められるわけがない。

「素晴らしい!やっぱ主席は違うな。」

「でも、分かってたとはいえ、君の思惑通り、僕と日奈子の距離は離れた。」

僕がちゃんと、日奈子の気持ちを分かってあげられなかったからだ。

「いや〜、主席が頭は良くても、恋愛には疎かったことが、不幸中の幸いでしたよ。」

悪かったな、疎くて。

生憎これが初恋だったんだよ。

「これでやっとまた日奈子が不幸になる。」

明人は嬉しそうだ。

「いや、日奈子は絶対に不幸にさせない。」

例え日奈子が僕のことを嫌いでも、僕は日奈子が好きだ。

「良い意気込みですね。でも、そう上手くいきます?主席、ファンの子に囲まれて、日奈子との距離も離れて、今までみたいに、日奈子をずっと見ていることはできませんけど?」

そんなことはとっくに知っている。

「それでも守る。まずはファンを追い払らえばいい。」

僕がそう言うと、明人が苦笑した。

「頭の硬い人だ。」

「何とでも言え。」

「まあ、上手くいくことを願っていますよ。」

皮肉混じりに明人が言う。

僕は呆れてその場を去った。

「ふふ。じきに転校生が来ることも知らないでね。」

その明人の呟きは、僕には全く聞こえていなかった。

いつもだったら聞こえていたし、転校生が来ることも、当たり前のように知っていただろう。

でも、今の僕には、色々なことを同時に考える思考力が、低下していた。

ただ、日奈子のことしか、考えることができなかった。

だから、これがまさか致命的なミスになるなんて、この時は思いもしなかったんだ。
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