キミがくれたコトバ。
23.5



あれから日奈子とは、話していない。

というか、話す機会がなくなった。

あれが最後だった。

きっと。

でも、そう思う度、まだ諦められない気持ちが湧き上がってくる。

僕のこと、好きだったって言ってた。

嫌いどころか、好きだったって……。

いつだろう……?

考えても答えが出ない疑問だと知っていながらも、答えが知りたくて……、でも聞けない。

もしかしたら、僕にもまだチャンスが……?

何だ。

この期待。

日奈子は京が好きなんだって。

でも、そういえばあの時……、日奈子は確実に嘘をついていた。

違うと言いながらも、絶対に嘘をついていた。

しかし、問題はそこではない。

何に嘘をついていたかだ。

僕の立てた仮説は2つ。

1つ目は、僕が好きだったということが嘘だということ。

でも、そこで嘘をつくとしたら、何でそんな嘘をついた……?

そんな必要、ないはずだ。

2つ目は、本当は京が好きではないということ。

いや、それはないだろう。

それこそ何でそんな嘘をついたのか分からないし……。

都合良く考えすぎだろう。

うーん……。

京か……。

そっか。

でも、京なら良い。

良いって僕が決めることじゃないけど、京なら絶対に日奈子を傷つけたりしないと思うから。

少なくとも、健吾よりは……。

「はい、HR始めるぞー。席つけー。」

先生の声が聞こえて、我に返る。

「今日は、このクラスに転校生が来ます。」

その瞬間、クラスがざわつく。

「この時期に〜?珍しい〜!」

「先生ー!男ですかー?女ですかー?」

「女の子ですよー。」

「えー、男が良かったー。」

一気に、クラスの女子からブーイングの嵐。

「イケメン、期待してたのにね。」

いやいや、それは可哀想だろ。

廊下にいるんだろ?転校生。

聞こえてたら、絶対、教室に入りにくいって……。

「イケメンはいらないよ〜。だって、このクラスには王子がいるもんっ。」

また……。

みんなが一斉に僕を見る。

「ね?王子!」

何だよそれ。

少し前までは、いじめてたくせに。

テレビ局の報道一つで掌返し。

「別に僕は普通だし、王子でも何でもない。それより、転校生が聞いてるかもしれないのに、『期待してたのに』っていう言葉は失礼だろ。教室に入りにくい空気、作んなよ。」

言いたいことを言った。

こんなことを繰り返しているうちに、僕の取り巻きは消えると思ったのだが……、

「キャー!さすが、王子!」

「クールで格好いい〜!」

違うみたいで、一向に退いてくれない。

「はいはい、静かに。」

先生が手を叩くと、クラス中がしんとなる。

こんなに目立つキャラじゃなかったのにな……。

そして、教室のドアがゆっくりと開き、1人の女子が入ってきた。

教卓の前まで行き、そこで立ち止まる。

「橋田 愛美です。」

そう言ってから、黒板に大きく、“橋田愛美”と書き、隣に“はしだ あいみ”と書き足した。

「田舎から引っ越して来たので、都会にはまだ慣れていませんが、仲良くしてもらえると嬉しいです。宜しくお願いします。」

礼儀正しく頭を下げる。

肩くらいまでの髪はストレートで、目はかなり大きい。

瞳が少し茶色で、くっきりとした二重瞼に、すらっとした高い鼻、くちもとはきゅっと結ばれていて、微笑むと笑窪ができる。

スタイル抜群。

何故、僕がこんなに細かく彼女の姿を描写したのか、僕が何を伝えたいのか。

それはたった一つの言葉で言うと……、

「めちゃくちゃ美少女じゃん。」

誰かがぽつりと呟いた。

でも、本人には聞こえていないらしい。

「それでは皆、色々教えてあげるように。」

「はーい!」

みんなは良い子のお返事。

しかし……、不安要素がありすぎだ。

もしかしたら、僕はあまり彼女に近づかない方が良いかもしれない。

女子達が、黙っておくわけがない。

「では、席は……、お!水瀬の隣が空いてるな。」

クラス中に、微妙なノイズが走るのが瞬時に分かった。

「橋田、水瀬……そこの、空いている席に座るように。」

「はい。」

橋田さんは、滑らかな足取りで、僕の隣の席に座った。

「では、HRを終わる。解散。」

先生がそう言った瞬間から、僕の生活は、またもや波乱が起こる予感がした。

そしてその予感は、……きっと当たる。
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