キミがくれたコトバ。
24



その日は、新たな保健室登校者が、学校へやって来た。

「みんな〜、今日は新しい子が来たのよ。」

瞳先生が言う。

「ひとみん!新しい子って……!?」

「新しい保健室登校の子。」

その瞬間、大輔くんが、両手を組んだ。

「来い!普通科か国際コミュニケーション科!来い!」

そう言うと、瞳先生が少し困ったような顔をしながら言った。

「残念ね、大輔くん。実は特進科Sの子なのよ。同い年だけどね。」

「なぬ〜!?」

大輔くん、ずっと前から、仲間が欲しいって言ってたもんね。

特進科が仲間じゃないっていうことはないと思うんだけど。

「こっちこっち。」

瞳先生が、廊下でその子を呼ぶ。

そして、その子が、保健室に入ってきた。

「初めまして。橋田 澄春です。」

わあ。

何て言うんだろう……?

サラサラの髪で、ぱっちり二重に、すらっとした鼻、きゅっと結ばれた唇、笑うと笑窪までできる!

顔が整っているし、スタイルも抜群だなあ。

「すばる?どういう字?」

大輔くんは、一切人見知りせず、澄春くんに話かける。

「『すばる』の『す』は、三水に登る。『すばる』の『ばる』は、春夏秋冬の春。」

澄春くんか〜。

爽やかな名前だな。

「俺は辰巳大輔!『たつみ』の『たつ』は…、」

「大丈夫。分かってるから。」

!?

「なぬ!?」

「来る前に名簿見ておいたんだ。辰巳 大輔くん、泉沢 日奈子ちゃん、で、そのカーテンの向こうで寝ているのが、細谷京くんかな。」

目が点になる。

とは、こういうことをいうのだろう。

「何で、京がベッドに寝てることまで分かんだよ。お前、エスパーなのか……?」

「違うよ。普通の人間だよ。保健室登校者は、全部で3人。だけどここには2人しかいない。瞳先生が、さっき全員いると言っていたから、休みではないはず。そして、ベッドのカーテンが閉まっている。ここまでくれば、一目瞭然だよ。」

澄春くんが、流暢に解説をする。

「お前、颯磨みたいだな……。」

「颯磨……?僕のクラスメイトの水瀬 颯磨?」

「そう。あ、そういえばあいつ、どんな感じ?」

澄春くんが特進科Sだということは、特進科Sは、1クラスしかないから、颯磨くんと同じだったはずだ。

でも、そんなの聞かなくても分かる。

王子って言われ続けて……。

「知らない。」

澄春くんが言った。

「何でだよ、クラスメイトだろ?」

「そうだよ。」

クラスメイトなのに、知らない……?

もしかして、澄春くんも、いじめに参戦していたなんてこと……。

「クラスメイトなら分かるだろ!」

「知らないよ。だって僕、今日、転校してきたばっかりだから。」

またもや目が点。

は……?

え……?

「待って、聞きたいことが沢山あるんだけど。」

大輔くんも、戸惑っている。

「何でも聞いて。」

「えっと、じゃあ1つ目。何で転校生なのに、颯磨の名前を知ってるんだ?」

うん。

本当にそれは疑問。

ナイス、大輔くん。

「一応、クラスの名簿も見たから。で、全員覚えた。」

またまた目が点。

「は……!?そんなに早く覚えられるかよ!!」

「いや、大輔くん。澄春くんは特進科Sだから有り得るって!実際、颯磨くんも、そういう所あったし……。」

「ま、まあな。でも、特進科Sが全員そうっていうわけじゃないぜ。単に颯磨は全国模試1位で、他の奴らとは飛び抜けて違ったし、颯磨の取り巻き達は、みんな頭悪そうだったぞ!?」

「頭悪いって……!私達よりは遥かに良いはずだよ!!」

「そ、そうだけど!」

私達は2人で慌てまくり。

「やっぱお前、……エスパー……?」

「だから違うって。」

「どっちにしろ、頭は良いんだな。」

「うーん、そういうのよく分からないけど、前に住んでた市内では、模試の結果が最高2位だったよ。」

!?!?

に、2位!?!?!?

「イケメンで頭も良いとかズルいだろ、お前!」

私もうんうんと頷く。

そんな中、澄春くんは、にこにことしていた。

「でも、颯磨くんもそうだよ?」

私が大輔くんに言う。

颯磨くんも……、格好良くて、頭が良くて……。

「あいつは特別だから、良いんだよ!」

何だ、そのルール。

私はおかしくて、噴き出す。

「まあ、同じ格好良いでも、颯磨は俳優のような格好良さ、澄春はアイドル系の格好良さだけどな。」

大輔くんが一生懸命に分析している。

「あ!あともう一つ、聞きたいこと!」

大輔くんが、思い出したように言う。

「何?」

「あ、えっと……、非常に失礼極まりない質問なんですけど……。」

私も何となく予想がついていた。

うん、その質問はしにくいよ。

「何で、転校初日から保健室登校なんですか?」

澄春くんは、少しだけ真顔になった。

京くんみたいに、身体が弱いとか、そういうことかな……?

それ以外に、初日から保健室登校になる理由は考えられない。

「あ、俺のも教えるんで!えっと、俺は……!」

「無理して言わないくても良いよ。その質問は僕も聞かれると思ってたしね。」

澄春くんが、再びにこにこ顔になる。

「授業聞いてても、眠いだけだし、高校レベルの学習なら、ここでもできる。ここの方が静かだと思うしね。」

そ、そんな理由……!?

「まあ、そんなわけで、仲良くしてね。」

澄春くんが、アイドルスマイルを送る。

颯磨くんの代わりじゃないけど、颯磨くんの代わりなんて誰もできないけれど、なんだかまた保健室が賑やかになるような気がして。

……嬉しい。
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