キミがくれたコトバ。
25



やっぱり京くんには言っておいた方が良いのかもしれない。

私が京くんのことを好きでいると、颯磨くんが勘違いしているって。

朝、登校する途中、そんなことを考えていた。

いや、でも、颯磨くんとはもう話すこともできなさそうだしな……。

というか、私が関係を断ったんじゃん。

今更何を思ってるの……。

でも、心の中に、まだ残ってるの……。

颯磨くんへの……、

「どうしたの?そんなに陰気臭い顔して!」

「ひゃあっ!!」

急に後ろか声をかけられて、心臓が止まるほど驚いた。

「ごめん、驚かせちゃった?」

「澄春くん!!」

澄春くんは、今日もにこにこしている。

「おはよう。」

「お、おはよっ……!」

まだ心臓がドキドキしている。

ほ、本当にびっくりした……。

「澄春くんも、今登校なんだね。」

「まあね。」

「教室、本当に行かないの?行ってみたら楽しいかもよ?」

実際、颯磨くんもなんだかんだで楽しくやってるみたいだし。

「澄春くん、格好良いから、取り巻きができると思う!」

「行かないよ。」

澄春くんの意思は、結構固いみたいだ。

でも、こんなこと、私が言えることじゃないよね。

私だって、クラスに戻っていないんだし。

「僕さ、本当は今日、この時間に来る予定じゃなかったんだ。」

教室へ行く話と、この話がどう繋がるのか分ららないけれど、きっと澄春くんの中では、ちゃんと繋がっているのだろう。

「明日からはもっと早く来る。そして、勉強する。」

その強い瞳が、一瞬だけ颯磨くんと重なり、まじまじと見つめてしまった。

「ど、どうしたの?」

澄春くんの声で、はっと我に返る。

「う、ううん!澄春くんって、目が茶色いんだね。」

「目?あ、うん。元から。」

「いいな。羨ましい!」

「そうかな?ありがとう。」

ふう。

良かった。

なんとか誤魔化すことができた。

保健室に着くと、そこには誰もいなかった。

「瞳先生も、京くんも、いない。」

「瞳先生、今日は出張だよ。」

!?

「何で知ってるの?」

「なんとなく、先生の昨日の雰囲気とか見てて、そうかなって。」

す、凄い……。

「京くんは病院だと思うな。」

それも分かるの……!?

「どうして……?」

「昨日、薬を飲んでるところをみたんだけど、丁度、薬が切れたみたいだったから。」

「へ、へえ。」

驚きすぎて言葉が出ない。

やっぱり凄い……。

……颯磨くんみたい……。

その考えが頭を過ぎり、すぐに頭を振る。

「……どうした?」

「あ、ううん、何でもなっ……!」

あまりにも慌てすぎてしまって、私はちょっとした段差につまづいて、バランスを崩した。

転ぶ……!!!

「わ!危ない……!!」

身体が一瞬、宙に浮いて……、

ドサッ

仰向けに倒れた。

しかし、頭も身体も何かに守られているようで、全く痛くなかった。

ゆっくりと目を開けると、すぐ近くに澄春くんの顔があった。

「大丈夫?」

「だ、大丈夫……!」

そう言うと、澄春くんは、ゆっくりと起き上がった。

「痛くない?立てる?」

澄春くんが、私に手を差し伸べる。

「うんっ……!」

私は澄春くんの手に掴まって、起き上がった。

な、何これ……!

何でドキドキしてるの……!?

何でまた颯磨くんと重ねてるの……!?

違うのに……。

澄春くんは澄春くんで、颯磨くんじゃないのに……。

どうして重ねちゃうの……?

「良かった、怪我が無くて。」

「澄春くんこそ……!」

「僕は大丈夫だよ。これでも運動神経は良いつもり。」

そ、そうなんだ……。

本当に完全無欠……。

「それにしても、日奈子ちゃんって、何だか危なっかしいね。」

は、初めて名前で呼ばれた……!

「あの、それは子供っぽいという意味……?それとも……身長が低いっていう意味……?」

「両方違うよ。少なくとも僕はそういう意味で言ったんじゃないよ。」

そ、そっか。

良かった。

「何で?もしかして、コンプレックスに思ってたりとか?」

うっ……。

一瞬にしてバレた……。

「そんなこと……、あはは。」

澄春くんは、表情を変えなかった。

笑って誤魔化しても……、駄目みたいです……。

「えっと……、あの……。」

「大丈夫だよ。詳しく聞くわけじゃないから。」

「あ、ありがとう。」

って!

お礼を言っちゃったら、認めたようなものじゃない!

「大丈夫!何も気にしてないから……!」

慌ててそう言うと、澄春くんが、ふふっと笑った。

「なんか日奈子ちゃんって、僕の姉に少しだけ似てる。」

「お姉さん?澄春くん、お姉さんがいるの?」

「うん。」

よし、少しだけ論点をずらすことができた。

「昔は仲良かったんだけどね、今はすっかり犬猿の仲っていう感じ。」

言いながらにこにこしている澄春くんは、少しだけ寂しそうにも見えた。

「今でも嫌いだ。いつまでも意地張ってちゃいられないんだけどね。」

「澄春くんでも、意地なんて張るの?」

「張るよ。姉は本当に完璧なんだ。みんなから美人って言われるし、頭も良いし。全国模試も、毎回市内で1位だった。」

やっぱり、澄春くんのお姉さんだけあって、外見も頭も完璧なんだ……。

「でも姉は完全無欠だからさ。こんな弟が嫌いだったんだろうね。」

そんな……。

「そんな……!私からみたら、澄春くんだって凄いよ!全統記述模試、市内2位だって簡単に取れるものじゃないし、顔だって格好良いでしょ!?」

って……!

私ったら、何むきになってるんだろう……。

「……!あ、ありがと。」

どうして重ねるの……?

私、酷い人だ。

澄春くんと話しながらも、言葉は颯磨くんに発しているようで……。

「やっぱ似てない。」

「えっ?そ、それは……、お姉さんより不細工で、頭が悪いということですか……?」

すると、澄春くんは、再び普段の笑顔に戻った。

「はははっ。違うよ。大丈夫じゃないのに、大丈夫っていうところが昔の姉に似てただけで、その他のところは似てないっていうこと。」

なんだ、良かった。

そういうことか。

遠回しに嫌味を言われたのかと……。

「でも、あの、澄春くんも、前まで保健室にいた、水瀬 颯磨くんって子に似てる。」

「ああ、全国模試、市内1位だっけ?」

「うん。」

何故ここで颯磨くんの話題を出したのか、もう自分でも分からない。

ただ、完全に他人になってしまうのが嫌だったんだ。

「雰囲気は似てないんだけど、話し方とか、なんかちょっとエスパーみたいなところとか。」

「はははっ。そうか。じゃあ、教室に行ったら、案外、楽しいかもね。」

「うん!そうだと思う!」

「でも僕は戻らないよ。」

澄春くんは真顔に戻った。

どうして……?

それは聞けなかった。

本当は、前に言ったこと以外に、別の理由があるんじゃ……。

「僕の姉さ、実は……、」

澄春くんが何かも言いかけた時……、

「よーっす!!」

バタンッ

勢いよく保健室のドアが開いた。

「大輔くん!おはよう!」

「うーっす!今日も寝坊ー。」

「分かってるよ。」

私達は3人で笑う。

澄春くんが何を言いかけたのかは分からない。

でも、これ以上は聞けなかったし、また本人から言ってくるまでは、当分聞かないことにした。
< 34 / 79 >

この作品をシェア

pagetop