キミがくれたコトバ。
26



「京くん……、ごめん……!」

やっぱり京くんにはちゃんと言わなくちゃいけないと思っていた。

だから、伝えた。

幸い保健室には誰もいなくて、話しやすかった。

京くんは、怒りもせず、困りもせず、冷静に受け止めてくれた。

「そっか……。」

「うん、でもね、私は嘘をついたつもりはないの。」

うん、嘘はついていない。

『私は王子のこと、なんとも思ってないよ。好きでもなんでもない。』

『私ね、他に好きな人がいるんだ。同じ保健室登校の子で。あ、でも大輔くんじゃないから安心して。』

確かにそう言った。

でも……、

「私は、『颯磨くん』のことを何とも思ってないと言ったわけじゃなくて、『王子』のことを何とも思ってないって言っただけで。」

「主語が違うってことね。確かに颯磨くんは僕達にとって、『王子』じゃない。」

「颯磨くんなら、鋭いから分かってくれると思ってたんだけど、全く伝わってなかったみたいで。」

いや、伝わったら伝わったで、告白したのと同じことだから、それはそれで困るんだけど。

「颯磨くん、そういうところはとことん鈍いからね。」

「鈍い……?」

「うん。勉強とか、推理とかは本当に凄いんだけど、人の気持ちとかには、凄く鈍いよ。」

そ、そうだったんだ……。

「でも颯磨くん、私が落ち込んでる時に、私を励ましてくれたよ。まるで、私の全てがお見通しのように。」

「うーん、それは、日奈子ちゃんのことが好きだからじゃないのかな?」

っ……!?

「な、無い無い無い無い無い!」

颯磨くんが私のことを好き……?

そんなのあるわけ無い。

「そうかな?僕はお似合いだと思うんだけどな〜。」

「そ、そんな……!」

ドキドキする。

何で……?

鼓動が止まらないよ。

「まあ、誤解は僕の方から、それとなく解いておくよ。」

「ありがとう……!」

京くんなら、そういうの得意そうだし、素直に嬉しい。

「じゃあ、そういうことで。迷惑かけてごめんなさい……。」

私は再び京くんに謝る。

「いいよいいよ。なんか僕まで参加できてて、逆にちょっと楽しい。」

京くん……!

その時、保健室のドアが数回ノックされた。

「あっ!瞳先生かも……!」

京くんの声が弾む。

「あのー……。」

しかし、ドアから入ってきたのは、瞳先生ではなく、澄春くんだった。

「澄春くん……!」

「ご、ごめん、入るタイミングがなくて……。」

えっ……、ていうことはまさか……。

「今の、聞いてた?」

澄春くんは、いつものにこにこ顔ではなく、困った顔つきになっていた。

「聞くつもりは無かったんだけど……。」

「いつから聞いてた……?」

「あの、最初から全部……。ごめん……。」

澄春くんが、申し訳なさそうに言う。

「大丈夫だよ。隠してたわけではないし。」

「そうだよね。」

京くんも同情してくれる。

「でも……、あ、じゃあ!一つだけお詫びさせて!何で良いから、一つだけでも……!」

「そんなの悪いよ……。」

澄春くんは、ただ聞いてただけなのに……。

「お願い。僕がしたいの。」

こういう時の澄春くんは、意思が強いらしい。

「分かった、じゃあ、一つだけね。」

「ありかとう!いつでもいいから、使いたい時に言ってね。」

澄春くんが、いつものにこにこ顔に戻る。

颯磨くんが好きだということがバレてしまったことは、少し恥ずかしいけど、私はこのお詫びを、最大限に利用させていただくことにした。

今度こそちゃんと、君のことを忘れるために。
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