キミがくれたコトバ。
26.5



「今回の定期テストの順位だが……、」

無事に定期テストが終わった。

取り巻きたちは橋田さんが前の市で1位だったことを、全く信じていないようで、早く結果が出て、橋田さんを馬鹿にしたいらしく、そわそわしている様子だ。

「1位は……、水瀬 颯磨。」

僕はホッと安心の溜息をつく。

「キャーー!王子〜〜!!」

周りが歓声を上げる。

橋田さんは……、真顔で下を向いている。

これは、一応、悔しがっているのだろうか……?

僕には分からなかった。

「やっぱり橋田さん、頭良いなんて嘘じゃん。」

「大口叩いてたのにね。」

誰かがボソリと呟く。

先生には聞こえていないみたいだけど、僕に聞こえるということは、当然、橋田さんにも聞こえているわけで。

「1年の時からずっと水瀬が1位だぞー。お前ら悔しくないのかー?」

先生が言う。

「ぜ〜んぜん、悔しくありませ〜ん!」

「おいおい。あ、でもな、」

先生が思い出したかのように言う。

「今まで2位は、水瀬と10点以上の差があったが、今回は3点差だった。」

3点差……?

それって……。

「その2位は、橋田だ!よく頑張った!」

橋田さんが截然と前を向いて、先生にお辞儀をする。

クラス中がしんと静まりかえった。

「みんなも水瀬や橋田を見習って、努力するように。では、HRを終わる。各自解散。」

先生が教室を出る。

「え……?橋田さんが2位ってどういうこと?」

女子達が騒ぎ始める。

「頭が良いっていうのは本当だったって事?」

「橋田さん!」

女子の中でも、ボス的存在の女の子が、橋田さんの席までやってきた。

「何?抜け駆け?そんなに王子に近づきたいの?」

明らかに嫌な雰囲気だ。

僕の時と同じ。

「学生の仕事は勉強だから。それを一生懸命やっただけ。いけないこと?」

女子の息が詰まる。

正論だ。

「そ、そうじゃなくて……!」

「あっ!もしかして、カンニングしたんじゃない……?」

「確かに!王子の隣だし!」

「そうだ!カンニングしたんだ!」

何故そんなに理不尽に橋田を攻める?

その原因は多分、僕にある。

僕のせいで、以前は日奈子も……、

バンッ

気づいたら、思い切り自分の机を叩いていた。

「お、王子……?」

僕は真っ白な紙に、

①柚子
②咖喱
③山葵
④洋銀
⑤西洋松露

と書いた。

「お前ら、これ、いくつ読める?」

まずは女子にそう聞いた。

「え……、①は “ ゆず ” だよね……?」

「②は “ カレー ” じゃない?」

「あ、私、③は知ってるよ!“ わさび ”!」

「④と⑤は?」

多分読めないだろうと思って聞いた。

「えー……、ようぎん……?」

「せいようまつろ……?」

「どちらも不正解だ。じゃあ橋田、これ読めるか?」

「①が “ゆず” 、②が “カレー” 、③が “わさび”、④が “ハーブ”、⑤が “トリュフ”。」

真顔で答える橋田さんに、周りが息を呑む。

「正解だ。分かっただろ?橋田さんはカンニングじゃない。勉強ができるのも、嘘じゃない。」

正論で返せば、女子達は黙るだろうと思った。

案外、簡単なものだ。

「で、でも……、」

まだ何か言いたいのだろうか……?

でも、何を言われても、橋田さんの白を証明できる。

だってそもそも、橋田さんは最初から白だ。

「あ、この問題、王子が先に橋田さんに教えてたんじゃない?」

「何故そんなことをする必要がある?」

僕は徹底的に責めるつもりだ。

「それは、王子が優しいから、橋田さんを庇おうとして……!」

「僕は嘘が嫌いだ。嘘をついてまで庇う必要が無い。」

「だったら……!も、もしかして、王子、橋田さんのことが……、好きとか……。」

橋田さんの表情は変わらない。僕もそうだ。

こう言われるのは、想定内だった。

「何言ってんのあんた!」

「そんなわけないでしょ!」

今度は、女子の中で、揉め始める。

だんだんと、逆に可哀想にも思えてきた。

「確かにそれは無い。」

僕は言った。

「ほらー!」

「でも、そんなの本当かどうか……。」

「本当だよ。」

僕の勢いは止まらない。

「僕の好きな人は、日奈子だ。」

何故そう言ったのか、それは分からない。

でも、まだ好きだなのは、嘘ではない気がする。

「え……、日奈子ちゃんって……、保健室登校の……?」

「でも、日奈子ちゃんは……!」

「そうだよ。日奈子は京のことが好きだ。だから、僕は完全な片想い。よって、橋田さんに恋愛感情は抱いていない。」

橋田さんの表情が変わる。

表情から感情は、いつもの通り読み取れることができないけれど、なんというか……、こんな表情もするんだな。

でも、言ってから自分でも恥ずかしくなってきて、話題を変えた。

「そもそも、何でお前らは橋田さんを責める?嫉妬して、羨ましいだけだろ?そういうの、凄く醜いと思う。」

女子達が、完全に言葉を失うのが分かる。

「僕の時もそうだった。テレビ局の報道一つで掌返し。僕のこと、『ガリ勉』だの『キモい』だの、散々言ってたくせに。何の謝りもなく、いきなり『王子』って騒ぎ出して。僕は今でも許せない。だからもう、近づくな。」

かなり酷いことを言ったと思う。

こういうのは無かったことにして、さっさと許してしまうのが、本当の王子だ。

でも、僕は王子じゃない。

王子より醜い。

でも、王子になりたいとは思わないし、仮面さえも被りたくない。

絶対、許せない。

キーンコーンカーンコーン

そこで、授業開始のチャイムが鳴り、女子達は、そそくさと自分の席へ戻る。

ちゃんと言いたかったことが言えた。

それだけで良かったと思う。

けど…………。

まだ諦められていないことにも……、

気がついてしまった。
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