キミがくれたコトバ。
27



「私に、勉強を教えて欲しい。」

澄春くんに、京くんとの会話を聞かれてしまった次の週、私は早速 “お詫び” を使うことにした。

その為に、今朝は早く登校してきた。

澄春くんは颯磨くんと同じで、いつも学校に早く来て、勉強をしていた。

「え?勉強?」

澄春くんが、きょとんとする。

「うん。この前の定期テストの点数が、あんまり良くなくて……。」

保健室登校者で、授業に出ていないとはいえ、定期テストは受けなければならない。

だから、だいたいは、独学することになる。

「教室にいた頃は、最高で1位だったんだけど、5位に落ちちゃって……。」

思い出す。

あの時は、ちょっと悲劇のヒロインぶってたかもな〜。

絶望して、勉強しかしてなかったら、特進科Aで1位だったんだ。

「5位ならいいじゃん。」

澄春くんが言う。

でも、私は首を振る。

「もしかして……、颯磨くんに追いつきたいとか……?」

澄春くんが私の顔をのぞき込む。

「無い無い無い。それはないから……!」

忘れるって決めた。

だから、澄春くんに勉強を教えてもらっているんだ。

颯磨くんは別に特別じゃなかったって、思えるように……。

澄春くんにも、同じことをしてもらえば、颯磨くんは特別じゃなくなるから……。

「そっか。」

「うんっ!」

最低だな、私。

「じゃあ、今日は、ベクトルからいこうか。」

ベクトル……。

あまり得意ではない範囲だ。

「ベクトルの計算ではね、ただ一つだけ、忘れてはいけないポイントがあるんだ。」

教え方も、話し方も違う。

颯磨くんは、真剣な瞳、澄春くんは、にこにこな笑顔。

って……!

何、比べてるの!

集中、集中。

「それは、2つのベクトルの、始点を合わせるっていうこと。」

「始点を合わせる……。」

澄春君の教え方は、とっても分かり易くて、苦手なベクトルも、だんだんと解けるようになっていった。

「じゃあこの問題、解いてみて。」

澄春くんに言われ、問題に集中する。

えっと……、まずは始点を合わせて……っと。

凄い。

スラスラ解けるようになってる!

できたっ!

そう言おうとした時……、

「日奈子ちゃん。」

澄春くんが言った。

「ん?」

「あのさ……、颯磨くんって、どんな人……?」

まさか颯磨くんについて聞かれるとは思ってもみなかったから、凄く驚いた。

「え、えっと……、」

返答に困る。

でも、嘘はつきたくなかった。

「凄く、優しい人。見た目はクールでね、あ、中身も結構クールなんだけど、真面目で、正義感が強くて、いつも私の先を歩いていて、つまずきそうになる度に、支えてくれるような……、あ!今のは比喩表現で……!えっと、そんな人だよ。」

上手く説明できてたかな?

少し自信が無い。

「そっかー。凄い人なんだなぁ。」

澄春くんが、羨ましそうに言う。

「会ってみたいな。」

「会うもなにも、教室に……、」

「行かないよ。」

即答だった。

どうしてだろう……。

どうしてそんなに嫌がるんだろう……。

その時、瞳先生が、保健室に入ってきた。

「おはよ〜。あら、日奈子ちゃんと澄春くん。早く来て勉強?」

「私が教えてもらっているんです。」

「そうなのね。日奈子ちゃんは勉強熱心ね〜。」

瞳先生は以前、私が颯磨くんと一緒に勉強していたことを知っている。

だから、勉強熱心だと思っている。

「そんな日奈子ちゃんに、一つお願い。」

お願い?

何だろう?

また買い出し??

「これ、届けてほしいの。」

瞳先生は、私に1枚の封筒を見せた。

「颯磨くんに、届けてほしいの。」

っ………………。

「これは……?」

「テレビ局からの、アンケート用紙。今度また記事に載せたいんだって。まあ、記事っていっても、そんなに大きな記事ではないんだけどね。」

テレビ局……、記事……。

やっぱり届かないのかな……。

「私が届けてもいいんだけどね、今日中に渡さないといけないんだけど、私、今日はこれから出張が入ってて、特進科Sのクラスはここからかなり距離があるから、京くんには頼めないし、澄春くんは颯磨くんを知らないし、大輔くんは、いつ学校に来るか分からなくて……。」

だから、私に頼むしかなかったということか。

「大丈夫ですよ。昼休みに行ってきます。」

「ありがとう。助かるわ。」

「あ、記事のことね、無理にとはいわないから、考えてほしいって言っておいてくれる?」

瞳先生がニコッと微笑む。

「はいっ。」

大丈夫。届けるだけだ。
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