キミがくれたコトバ。
29.8



どうやってこの話を持ち出そう……。

水瀬くんは鋭いから、作戦がバレないように、注意深くしなくてはならない。

そして、そのタイミングを、私は水瀬くんの隣でじっと待っている。

と、その時……、

「王子〜〜〜!!」

水瀬くんの取り巻きだ。

私はチャンスだと思った。

よし、これならいける。

水瀬くんは、面倒くさそうに、顔を向ける。

「今度の文化祭の後夜祭で行われる、『恋人迷路』って知ってる?」

「何それ。」

うん、そう来ると思った。

取り巻きが、水瀬くんを『恋人迷路』に誘う。



水瀬くんが断る。



それでも取り巻きはしつこい。



私が、『先約を作ってしまえば良い。』と言う。



『良かったら私と行く?他にやることないし。』

よし!いける!

「2人で出てこられたら、その2人は永遠に結ばれるっていう迷路!」

「そんなのがあるんだ。」

「うん、でね、王子はやっぱり日奈子ちゃんと行くの?」

……!!

意外だった。

予感が外れた。

「え……、いや、そんな……無理。」

「何でよ〜。」

え、貴方達、誘わないの……!?

だったら私の計画はどうしたら……。

「何でって……、っていうか、日奈子に何もしてないよな?」

「嫌だな〜、そんなことしてないって〜。」

「そうそう。うちら、王子と日奈子ちゃんの味方だし。」

「日奈子ちゃん、めっちゃいい子だもんね〜。」

「うん、うちらじゃ到底叶わないって感じ?」

「ってかうちら、2人のこと、全力で応援してる!お似合いだもん!!」

何で……?

どうして……?

こんなにしつこい取り巻きを、どうやったらこんな風にできるの…?

「何もしてないなら……良いけど……。」

「キャー!王子の気遣い、格好良い〜!!」

水瀬くんは、相変わらず面倒くさそうだ。

「っていうか、王子から言えないなら、うちらから言っておこうか?」

「誰に何を?」

「日奈子ちゃんに、王子が一緒に『恋人迷路』に行きたいって言ってるって。」

え……、そんな、困る……!

「っ……!!ぜ、絶対、言うなよ!!」

水瀬くん、動揺しすぎ。

「言ったら、嫌いになる。」

「え〜、じゃあ言わな〜い!」

水瀬くん、慣れたのかな。

自分が人気者であることに。

そんな感じがする。

それより……、どうしよう。

取り巻き達、絶対に言うはず。

そしたら、計画が全部駄目になる。

日奈子ちゃんと水瀬くんは、きっと両想いだから、それだけは避けたい……。

「日奈子ちゃん、澄春と行くって。」

その場が一瞬にして静まりかえる。

明らかに私が発言する場ではなかったことは、自分でも分かっている。

でも、そうしなかったとしたら……。

『ずるい。』

『卑怯者。』

分かってる、そんなこと。

「そうなんだ。」

水瀬くんが呟く。

もう、いい加減、諦めればいいのに。

「え!澄春って誰!?」

「そんな!ってか、王子にライバル現る!?」

「あれ?京って子もライバルじゃないっけ?」

「あーもう、分かんなくなってきた!!」

「つーかさ!王子フリーなら、私と行こうよ!」

おっ。

きたきた。

「え〜!抜け駆けは駄目!!私と〜!」

「お前こそ抜け駆け駄目〜!」

ずるくても卑怯でもなんでもいい。

日奈子ちゃんだって、何だかんだ言って、もたもたしているんだから、私が取ったって、別に良いでしょ。

「僕、誰とも行かないから。」

「え!何で!?」

「そういうの、興味無いし。あと、早くしないと文化祭の準備、間に合わないぞ。まだ仕事残ってるんだろ。」

「あー、うん。そうだね。」

そう言って、取り巻きは退散した。

「僕達もやらないと。」

水瀬くんが言い、私はうなづく。

今だよ。

うん。

確実に今だ。

「ねえ、水瀬くん。」

「ん?」

「良かったら『恋人迷路』、私と一緒に行ってくれないかな?」

「えっ……!?」

この反応ってことは、私と行くことは少しも考えていてくれなかったってことか。

「澄春、どうしても日奈子ちゃんと付き合いたいみたいで。あんなの迷信に決まってるのに、完璧に信じ込んじゃってて。だから、嘘だってこと、証明したいの。証明するためには、迷路に行かなくちゃいけないでしょ?でも、行く人がいなくて。だから、水瀬くんが日奈子ちゃんと行かないなら、一緒に行ってくれない?」

口から出任せ。

全部、今考えた。

「あ、でも……、」

「お願い。」

「あ……、うん。分かった。」

またずるい手を使った。

でも……仕方ないんだ。
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