キミがくれたコトバ。
30.5



「ごめんね、急に呼び出して。」

「別に大丈夫だよ。」

突然、京に呼び出されて、保健室に来た。

「日奈子ちゃんも大輔くんも澄春くんも、もう帰ったから、ゆっくり話せる。」

「そっか。」

でも……、不思議な気分だよな……。

好きな人の好きな人と話すなんて……。

「聞いたよ。クラスの子と、『恋人迷路』、周るんだってね。」

えっ…………?

「そんなに噂になってるのか……?」

「当たり前だよ。颯磨くんはあの日以来、有名人なんだから。みんな噂してる。」

“ あの日 ”

僕が、日奈子から遠ざかった日。

「でも颯磨くん、本当にそれでいいの……?」

ズキッ……

「それでって?」

「颯磨くん、まだ日奈子ちゃんのこと、好きなんだよね?なのに、日奈子ちゃんを誘わなくても、日奈子ちゃんに勘違いされても、いいの……?」

勘違いって。

「別に、されたところで、何も変わらない。」

何だこれ……。

モヤモヤする……。

イライラする。

「本当に?本当にそう思うの?」

本当もなにも……!そんなの……!

「日奈子が好きなのは京なんだよ!僕じゃない!分かってて言ってんのかよ!」

っ……、何で怒鳴ってるんだよ僕……。

いつだって、自分の感情は抑えて、冷静に生きてきたのに……。

そのやり方を、忘れてしまったみたいだ……。

京は何も悪くないのに……。

「違うよ、日奈子ちゃんが好きなのは、僕じゃないよ!」

は……?何言ってんだよ……。

何でこんなにイライラするんだよ。

京も日奈子も大切な人なのに、何でこんなに……。

「日奈子本人が言ってたんだよ、京が好きだって。」

最低だ僕は。

何でバラしてるんだ……。

「本当にそう言ったの?本当に日奈子ちゃんが、『京くんのことが好き』って言ったの?よく思い出してみてよ。」

よく思い出しても出さなくても、答えは同じ。

「日奈子は、『私は王子のこと、なんとも思ってないよ。好きでもなんでもない。ただ、同じ保健室登校だっただけ。それだけだから。』って言ったんだ。」

「うん、それから?」

それから……、

「『他に好きな人がいるんだ。同じ保健室登校の子で。あ、でも大輔くんじゃないから安心して。』って。」

「ほら、僕のことが好きだなんて、一言も言ってない。」

でも……、

「文脈的にそうだろ……。」

「僕は、その言葉を聞いて、日奈子ちゃんは絶対に颯磨くんが好きだって思ったよ。」

「そんなわけないだろ。話はそれだけ?それなら、もう帰るけど。」

何で、何でこんなに冷たくしてるんだよ……。

「うん……。じゃあ、あと一つだけ。日奈子ちゃん、『恋人迷路』、澄春くんと行くって。」

………………っ。

「でもね、それは無理矢理りでも颯磨くんを忘れる為だと思う。本当は、両想いのはずなのに、本当にそれでいいのかな……。」

何だよ……、両想い、両想いって。

日奈子は京のことが好きで、そうじゃなかったとしても、澄春くんのことが好きなんだよ。

「もう僕には関係ない。もう全部終わったんだ。前みたいには戻れないんだよ!」

そう言って、僕は保健室を出た。

何だ…、何だよ、これ……。

何でこんなにモヤモヤして、何でこんなに動悸が激しいんだ……。

そもそも何で僕は京に怒鳴ってしまったのか。

いくら考えても、全てが分からない。

っていうか……、両想いって何だよそれ……。

そんなわけないだろ……。

もし仮にそうだったとしても……

ドンッ!

普段ならこんなことない、絶対に。

でも今日は動揺していて、前を見ていなかった。

誰かとぶつかった。
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