キミがくれたコトバ。
30.5 続



「すみません……。」

「ご、ごめんなさいっ……!」

同時に頭を下げて、同時に頭を上げて、同時に気がつく。

「っ……………。」

「そ……うまくん……。」

一瞬だけ触れた……。

「日奈子……………。」

もしかしたら、今1番会いたくなかったのかもしれない。

「帰ったんじゃ、なかったのか……?」

「え、えっと、わ、忘れ物です……。」

どことないよそよそしさを感じるのは、お互い様だと思う。

何か……、どう話せば良いのか分からないっ……!!

「あ、あの、颯磨くん……!」



「ぶ、文化祭の……、こ、恋……、ここ、恋……。」

「ん?鯉?文化祭に鯉を使うの?」

「あ、違う、そっちの鯉じゃなくて、あの……、こ、『恋人迷路』……、」

─日奈子ちゃん、『恋人迷路』、澄春くんと行くって。─

京の言葉が蘇る。

ズキンッ

「せ、先約あるのは知ってるけど、あの、もし良かったら……もし……。」

「ああ。日奈子は澄春くんと行くんでしょ。」

何で、こんなこと言ってるんだろう……。

嫉妬ってバレたら……。

「えっ?あ、いや、その……。」

日奈子の顔が赤くなる。

もう、潮時じゃないのか……?

いつまでもこだわっていても仕方がない。

『本当は、両想いのはずなのに、本当にそれでいいのかな……。』

僕は何を期待しているのだろう……。

前に好きだと言われたから、まだチャンスがあると思っている自分が憎い……。

もう、いいよ……。

ちゃんと諦めて、次に進まないと駄目だよな……。

日奈子も迷惑だろうし、京にも怒鳴って……、良いことなんて何も無い……。

「応援するよ、澄春くんとの恋。」

「えっ……!?あの、そうじゃなくて……!」

「そうだよね。僕じゃ頼りにならないか。」

「え、いや、あの……、違っ……!」

僕は笑う。

ちゃんと笑えているかは分からないけれど。

「大丈夫。日奈子のこと引きずってるなんてことはないから。好きだったのは昔。日奈子もそうだろ?」

「え……、あ……、うん……。」

ほら、やっぱりこの感情は、過去の話。

「それから、僕も今は橋田さんのこと、いいなって思ってて。だから……、」

嘘なんて、嫌いなはずなのに……。

「そ、そうなんだ。し、知らなかったなあ。そっか。うん、そっか……。」

何で……、何でそんな顔するの……?

「わ、私も応援する!」

「うん、ありがとう。じゃあ、もう行くから。」

これ以上、見ていられない。

そう思った。

「う、うん。じゃあね。」

もう、振り返るのはやめる。
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