キミがくれたコトバ。
4



早いもので、入学してから3日が経った。

運の良いことに、明人くんとは同じクラスに
ならなくて済んだ。
そして健吾と同じクラスになった。

せっかく同じ高校に入学したのに、明人くんには、もう会えないな……。

私のことが嫌だったなら、どうして同じ高校に
行きたいなんて言ってくれたのだろう?

それも、明人くんの優しさ……?

「泉沢さん!」

クラスのチャラそうな男子に声をかけられた。

苦手なタイプだ……。

「……はい?」

「あのさー、教えて欲しいことがあるんだけど。」

何だろう?なんか怖いな……。

「今、女子全員の身長を聞いて、統計で表すってことを趣味でやってて。泉沢さん、身長いくつ?」

身長……。

今、1番聞きたくない言葉だ。

嫌だ……。統計なんかにされたら、明らかに私、
ハズレ値だよ……。

「え、えっと……、」

なんと返答したら良いのか分からなくて、私は
黙った。

「体重は聞かないからさ〜、ね?身長ならいいでしょ?」

痩せてるわけでも何でもないけど、むしろ、体重の方がマシ……。

「泉沢さ〜ん?聞いてる〜?早く答えて〜。」

どうしよう……。

「えっと……、あの……、」

「嫌がってんじゃん。」

えっ?

「誰だよ、お前。」

「同じクラスなのに、まだ覚えてないの?健吾だよ。下の名前だけでも覚えとけ。」

健吾……!わざわざ、私を助けに……?

「ついでに、身長を聞かれて嫌な奴もいるってことも、覚えとけ。」

「そんな奴いるかよ。」

「いんだよ。人には色々、事情があんだよ!」

「あ?」

「健吾!いいから。」

私のせいで、健吾の人間関係が悪くなるなんて、
嫌だった。

「ありがとう。」

健吾にそう言ってから、チャラそうな男子に、

「ごめんなさい。事情があって、それは教えられない。ごめんなさい……。」

と言った。

「そう。ならいいから。」

良かった。引き下がってくれた。

「あ、じゃあさ、全然関係ないことなんだけど、一つだけ聞いていい?」

……?

「うん、答えられる質問なら。」

「やったね!」

チャラそうな男子、略してチャラ男くんが、
ガッツポーズをした。

「単刀直入に聞きます!お二人は、付き合ってるんですか〜??」

!?え、ちょっ……!

「うん、付き合ってるけど。」

「ちょっ……、健吾……!」

どうして、何の躊躇いもなく、言えるの!?

「良いじゃん、事実だし。」

ま、まあ、それはそうだけどさ……。

「そーなんだ!!意外〜!」

「俺たち、幼馴染みなんだよ。」

健吾が説明する。

「ほ〜。面白いスクープ、ありがとね!」

チャラ男くんは、そう言うと、去っていった。

「……大丈夫か?」

「うんっ。全然平気!」

「そっか……。」

嘘をついた。

「じゃあ、帰ろうか。」

「うんっ!」

彼氏なのに、言えない。

『もう、生きてる意味なんて無いんです。どうせみんな、私のこと、良く思ってない。一緒に歩きたくないって思ってる。馬鹿にしてる。』

“あの時”の、“あの人”との会話を思い出す。

どうして、あの時は言えたんだろう……。

あっ……、そういえば私、あの人とキ……、

って、違う違う違う!!!

「日奈子?」

健吾が私の顔をのぞき込む。

「へっ?」

「首、凄い速さで振ってたけど?」

わっ!動作に出ちゃってたっ……!

「あ、なんか虫がいて……!でも、もういなくなったみたいだから大丈夫!あははは。」

咄嗟に誤魔化した。

言えないよね……。あの日、あったこと。

ううん、言わなくたっていいんだよ。
だって、あの人には二度と会わないんだから。

無かったことにすればいい。

「そっか。でさ、今週の土曜日だけど……、」

「うん。」

「デートしない?」

うん。

……うん!?デ、デート!?健吾と!?

小さい頃から一緒にいすぎて、今更デートとか
考えたこと無かったな。まぁ、一応カップルだし、当たり前か。

「ほら、デートしたら、明人のことも、忘れられるかもしれないし。」

明人くん……。

その名前を聞く度に、私は見返したいという衝動に駆られる。

そして、あまり考えずに発言してしまうんだ。

「分かった。土曜日ね。」

「よしっ!」

健吾が小さく、ガッツポーズをする。

もう、誰にも迷惑はかけたくない……。

明人くんのときの反省を生かして、ちゃんと、
健吾に見合う彼女になろう。

私はお姫様じゃない。

だから、せめて、お姫様の仮面を被っていよう。
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