キミがくれたコトバ。
32.7



勢いで抱きしめてしまったけど……、し、心臓が壊れそうだ……。

見つめ合ったり、手を握ったりして、もっと触れたくなったのもある。

でも、それだけじゃない。

日奈子ちゃん、辛そうな顔してた。

やっぱりまだ颯磨くんが好きだって分かった。

だから、颯磨くんと愛美が仲良くしてるところ、日奈子ちゃんには見せたくなかった。

だから、隠す為に抱きしめた。

それもある。

「好きだよ澄春くん……。」

……!

「僕も……。」

今は、見せつける時だから。

そういう言い訳をして、日奈子ちゃんに言わせた言葉。

颯磨くんに、見せつける為に……。

僕はそのまま日奈子ちゃんから離れ、顔を隠したまま、第4チェックポイントへ向かった。

「テッテレッテレー!ここでのミッションは、2人きりで、かつ、密室された空間で、あんなことやこんなことをしちゃいましょう!」

え……、いやいや、そんな企画いいのかよ。

と、突っ込みたいところだけど。

ふーん。

明人さん、よくやるよね。

こんなギリギリなことをしてまで、日奈子ちゃんを絶望させたいんだ。

「日奈子ちゃん、入ろう。」

僕達は、小部屋に入った。

小部屋といっても、ただの教室だけど。

カチャッ

鍵をかけられた音がした。

ここからが本当のミッション。

ごめんね日奈子ちゃん。

明人さんに頼まれてるんだ。

日奈子ちゃんを絶望させろって。

「鍵、かけられちゃったみたいだね……。」

「そうだね。」

日奈子ちゃんは、少しだけ動揺している。

「ねえ、」

「ん?どうしたの?澄春くん。」

言うんだ。

絶望させるんだ。

「もう、疲れたんだけど。」

「えっ……?」

日奈子ちゃんの表情が変わる。

明人さん、喜ぶかな。

「お前とペア組んでることが疲れたって言ってるんだよ。」

信じていた人から裏切られるって、どんな気持ちだろう。

いや、本当は僕だって分かってる。

消えたくなるよね。

「す、澄春くん……?」

「もしかしてさ、日奈子ちゃん、あの告白、本気だと思っちゃってたり?」

嘲笑うように言った。

「えっ……。」

日奈子ちゃんの泣きそうな顔。

これが見たかったんだな、明人さんは。

「いや、普通に有り得ないだろー。」

震え出す日奈子ちゃんをよそに、僕は続ける。

「お前のどこを好きになるっていうの?まず、その体型からして論外だよ。笑わせんなよ。初めて会った時から思ってたよ、気持ち悪いって。」

「っ…………す……。」

もはや言葉にすらならないか。

目も潤んでいるし、声も震えている。

ここは密室だし、相当怖いだろうな。

でも……、日奈子ちゃんが絶望する姿……、僕は見たくないよ……。

今にも泣き出しそうで……。

でも、傷つけているのは僕だ……。

結局、僕は、自分が1番可愛いんだ。

そんなのやめるって……、誓ったはずなのに……。

やっぱり駄目だ。

こんなこと……できない……。

「なんて……、裏切れるわけないって……。」

僕はそう言って、しゃがみ込んで、顔を伏せた。

「澄春くん……?」

ちゃんと全部言おう。

もう、逃げたくない。

「日奈子ちゃんが新聞部の人に色々されたり、健吾くんに酷いこと言われたりしたでしょ。」

日奈子ちゃんの表情が、驚いている表情になった。

「どうして知ってるの……!?」

「それは今は聞かないで。」

「あ、うん……。」

「それ、全部明人さんが裏で手を回して、日奈子ちゃんを絶望させようとしてたんだよ。」

僕はまだ顔を伏せている。

「えっ……!?明人くんが……!?」

「僕も頼まれた。今日の『恋人迷路』で日奈子ちゃんを絶望させろって。」

「そんな……、どうして……。」

「僕にもよく分からないけど……、この学校に転校してきた日から、日奈子ちゃんを見張るよう言われてた。」

だから僕も最初は日奈子ちゃんのこと、嫌な目で見ていたと思う。

「でも途中から……、好きになっちゃったんだよ。日奈子ちゃんのこと。本当に。」

「え……えっと……、ごめん……。今、何が起きてるのか、頭が全然追いつかない……。」

それもそうだろうな。

僕が優しくして、裏切ろうとして、また優しくしているんだから。

混乱して当然だと思う。

「じゃあ、最初から細かく全部話すよ。」

「うん。そうしてもらえると嬉しいな。」

何でこんな時まで優しいんだよ……。

裏切られるところだったんだぞ……。

僕のこと、嫌いになって、冷たくしても良いはずなのに……。

駄目だよ。

そんなに優しくされたら、もっと、好きになっちゃうから……。

「顔……、伏せたままでいい?」

「うん、勿論良いよ。」

格好悪い体勢だけど、今は日奈子ちゃんの顔を直視できないんだ。

だから……、このままで……。
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