キミがくれたコトバ。
32.75 ①



僕と愛美は、元々仲の良い双子だった。

顔も、自分では分からないけど、周りからは、似てると言われていたから、多分、似ているんだと思う。

愛美は小さな頃から何でもできて……、逆に僕は正反対で、何をするにも愛美の遅れをとっていた。

いや、もしかしたら、愛美が完璧過ぎるだけで、僕も周りに比べたら特別劣っているわけではなかったのかもしれない。

愛美が走ったら、僕も走って、愛美が笑ったら、僕も笑った。

愛美は僕の姉であり、ヒーローでもあった。

愛美に憧れて、愛美もそれを喜んでいたみたいだし、平穏な日常を過ごしていた。

しかし、そんな日常は、僕達が小学5年生になると、崩れていった。

その日は愛美と給食セットを取り違えて、交換しに愛美の教室へと向かった。

「あいちゃん!」

当時は愛美のことを、『あいちゃん』と呼んでいた。

「何……?澄春……。」

変な感じがした。

愛美は明るい子なのに、今はとても暗い。

僕のことも、普段は『すー』って呼ぶはずなのに、この時、生まれて初めて呼び捨てで呼ばれたんだ。

「あいちゃん?どうかしたの?大丈夫?」

双子だから、相手の感情は直ぐに分かったし、あいちゃんには笑っていて欲しかった。

だって僕のヒーローだから。

「大丈夫。何でもないよ。給食セット、持って来てくれてありがとう。」

あいちゃんは、ニコッと笑った。

でも、その笑い方は……、あいちゃんが強がる時の笑い方だった。

心配しながら教室に戻ると、あいちゃんと同じクラスの男子が僕の教室に来ていた。

「お前、橋田愛美の双子の弟なんだろ?」

1度も同じクラスになったことがなくて、初めて話す子だった。

「そうだよ?」

「お前も気をつけた方がいいぜ!」

気をつける……??

「何を?」

「双子なのに知らねーのか!?愛美、いじめられてんだよ。」

え……………?

あいちゃんがいじめられてる……?

「そんなの嘘だよ。」

だってあいちゃんは、何でもできる、僕の自慢のお姉ちゃんだから。

「本当だよ。誰がそんな嘘つくかよ。」

「でも、あいちゃんは……!」

「まあ、何はともあれ、気いつけな。」

「え……あ、……うん。」

それ以上、何も言えなかった。

罪悪感が残った。

何で反論できなかったんだろう……。

その日、家に帰ると、あいちゃんに真実を聞き出した。

「ねえ、あいちゃんと同じクラスの男子から、あい
ちゃんがいじめられてるって聞いたんだ。」

あいちゃんの顔色が変わった。

「嘘だよね……、そんなの。」

「本当だよ。」

あいちゃんは少しだけ微笑んだ。

「そんな……!大丈夫なの!?」

「大丈夫。全然気にしてないから。」

あいちゃんは笑った。

でも、僕は知ってるよ。

無理してるんだよね……。

「さあ、宿題やらないと!」

あいちゃんが無理矢理話題を変えた。

僕は学校ではしばらく、様子をみることにして、家では毎日、あいちゃんを励ますことにした。

それくらいしか、僕にできることは無いと、当時の僕は思っていた。

あいちゃんも、何とか持ちこたえていたけれど、ある冬の日、あいちゃんの怒りが爆発した。

あいちゃんとは、いつも一緒に帰っているのに、その日はあいちゃんがなかなか待ち合わせ場所に来なかった。

僕は心配になって、あいちゃんの教室まで向かった。

そして、目にしてはいけない光景を見てしまった。

そこには、水浸しのあいちゃんがいた。

僕は、金縛りにあったかのように、動けなくなった。

「いい気見よ。」

1人の女子がいった。

「いつも何でもできるからって、偉そうに!」

「どうせ、私が何でも1番って思ってるんでしょ!」

「そ、そんなこと……。」

「あるわよ。男子にはいい顔しちゃってさ。」

「男たらし!」

あいちゃんは……、偉そうになんてしてない!

男たらしでもない!

そう叫びたいのに、声が出ない。

ここで僕が反論したら、次にいじめられるのは僕かもしれない。

そう思うと、怖くて。

助けることができなかった。

しばらくすると、いじめっこは帰っていった。

あいちゃん……、どうしよう。

今日は見ていないことにして、先に帰ろうかな……。

でも、ここで帰ったら、最低な弟になる……。

僕は、最低な弟になりたくなくて、あいちゃんの教室に飛び込んだ。

「あいちゃん!!どうしたの、それ!!」

あくまでも、今知ったかのように。

それまでのことは、見ていないことにしようとした。

「着替え、持ってこようか?あ、濡れた床は僕が綺麗にしておくね。」

あいちゃんは無言だった。

何かがおかしい……。

「寒くない?僕のジャンパー着る?」

いつものように笑うことすらしなかった。

嫌な予感がした。

「あ、ランドセルは僕が………、」

「もう、帰ってよ。」

えっ……?

「あいちゃん……?」

「もう帰ってって言ってんの。あんたみたいな弟、もういらないから!」

あいちゃん……!?

「さっきの見てたんでしょ。それなのに無視?別に助けて欲しいなんて思ってなかったけどさ。どうせ昔から何もできないんだし。」

何も言えなかった。

そうだ。

僕はあいちゃんに比べて、いつも全て劣っていた。

「私がいじめられてるのも、間抜けなあんたがいるせい!私は澄春が大嫌い!もう一生、話しかけないで!!」

あいちゃんは走っていってしまった。

僕は僕自身を呪った。

助けなかったのは……、自分が被害に逢いたくなかったからだ。

僕はあいちゃんの見方をしていたんじゃない。

自分がただ、可愛かっただけだ……。

その日から、僕と愛美は口をきかなくなった。
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