キミがくれたコトバ。
33



「えっと、そういうことで、……………引いた?」

澄春くんから全てを聞いた。

そして澄春くんは、やっと顔を上げた。

「えっと……、ちょ、ちょっと待って。」

「ごめん、嫌いになったよね……。」

澄春くんがしゅんとする。

「違う!嫌いになんてならないよ!」

ただ……、

「澄春くんと橋田さんが双子っていうことから、衝撃的すぎて、何が何だか……。」

言いたい言葉はこれじゃない。ちゃんと、澄春くんを励ましてあげられるような、言葉が欲しい。

「黙っててごめんね……。比べられたらって、怖かったんだ……。」

「そんなこと、するわけないよ。」

それは、自信をもっていえること。

「橋田さんは橋田さんで、澄春くんは澄春くんだよ。双子とはいえ、同じ人間じゃないから、個性があって当然だよ。双子だって聞かされた今でも、私は澄春くんのこと、今までと同じように思ってるよ。何も変わってない。」

その瞬間、澄春くんに抱きしめられた。

「え……!澄春くっ……!?」

「ごめん。少しだけ。」

私が小さいから、澄春くんは私を完全に包み込んでいる。

ドキドキする……。

触れた部分が、熱い……。

「転校してきた時……、」

そのままの体勢で、澄春くんが続けた。

「明人さんは僕らの事情を知っていた。それで、保健室登校のことを教えてくれたんだ。でも、登校初日から保健室登校はおかしいから、最初は認められなかった。そんな時、明人さんが言ったんだ。『日奈子を絶望させるって約束するなら、特別に保健室登校を認める』って。」

背筋が冷たくなる。

それを察知したのか、澄春くんの腕が強くなった。

「僕はやっぱり自分が可愛かったんだ。保健室登校をしたいからっていう理由だけで、全く知らない人の不幸を約束したんだから……。」

そんな……。

「ごめん……。本当にごめん……。」

澄春くんのせいじゃないよ……。

「ごめん……。ごめん……。ごめん……。」

澄春くんの腕が、どんどん強くなっていく。

「澄春くん……ちょっと苦しい……。」

「あ、ごめん……。」

力が弱まる。

「過去にそんなことがあったら、誰だって自分を守りたくなるよ。でも、私の存在が、一瞬でも澄春くんを守れて良かった。」

ドンッ

その瞬間、私は澄春くんに押し倒された。

澄春くんが真剣な瞳で私を見つめている。

「澄春くん……!?」

澄春くんは黙ったままで、そのまま顔が近づいてきた。

わっ……!ち、近い……!

唇が触れそうになるギリギリのところで澄春くんは止めて、私から離れて立ち上がった。

私もそのまま立ち上がる。

「ごめん。第5チェックポイント、行こう。」

まだドキドキしてる……。

澄春くんの体温が、まだ残っていて……。

「待って澄春くん!!」

気づいたら、そう呼び止めていた。

澄春くんがゆっくりと振り返る。

「あの、私……。」

ドキドキするから……、私はきっと……。

「私、澄春くんのことがっ……!」

「それは違うよ、日奈子ちゃん。」

え……?

「僕の弱みを見て、僕が日奈子ちゃんに触れたから。吊り橋効果?分からないけど、日奈子ちゃんが僕に対して抱いてる想いは、恋じゃない。」

恋……じゃない……?

こんなにドキドキしてるのに……?

「さっきの、第3チェックポイントのミッションの時、日奈子ちゃん凄く悲しそうな顔してたよ。颯磨くんと愛美が仲良さそうにしている所を見て。凄く悲しそうだった。」

っ……………。

「まだ好きなんでしょ?颯磨くんのこと。」

何故か泣きそうになった。

でも、そうだった。

「僕は日奈子ちゃんを見てたから分かる。日奈子ちゃんがいつも見てたのは、僕じゃなくて颯磨くんだったよ。」

その通りだった。

颯磨くんが遠くに行っても、私はずっと颯磨くんのことが忘れられなくて……。

澄春くんと重ねて見ていた……。

「ごめんね……。」

「何で日奈子ちゃんが謝るの?謝るのは、裏切ろうとしていた僕の方だよ。」

「澄春くん……。」

「応援してるよ。日奈子ちゃんと颯磨くん、すごくお似合いだもん。」

「ありがとう……。」

この身長のことも、明人くんの計らいも……、守ってくれたのは、励ましてくれたのは、いつも颯磨くんだった。

遠くに行ったからって、そんなの関係なかったんだ。

私と颯磨くんの過ごした日々は、変わることのない事実だったんだ。

諦めるとか諦めないとか、そんな単純な話じゃなかったんだ。

私は颯磨くんのことが好き。

それだけは、紛れもない事実だったんだ。
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