キミがくれたコトバ。
5



「おまたせ、健吾!待った?」

土曜日。デートの日。

健吾とだと、あんまり緊張しないな〜。
でも、その方が、却って楽。

「よっ!そんなに待ってないから。」

こんな憧れのシーンを、明人くん以外の人とする
ことになるとは……。

やっぱり、健吾が王子様……!?

「何、赤くなってんだよ。」

えっ!?バレてた!?
恥ずかしい……。

「ほら、行くぞ。」

健吾が私の手を引く。一瞬転びそうになったけど、
健吾は気づかなかったみたいだ。

実は今日、かなり高いヒールを履いてきた。

それまでは、ヒールなんて、ほとんど履いたことがなかった。

だから、はっきり言って、かなり歩きにくい……。

「お前、ヒール……。」

健吾が気づいたようだった。

「もしかして、まだ引きずってんのか?」

うん、引きずってる……。多分、一生引きずる……。

でも、そんなこと言えない。

「ううん。引きずってはないけど、ただ、健吾と親子だと思われたら、嫌だから。」

本当は、他人の目が怖いだけ。

ここのところは、そればっかりで、外もろくに
出られなくなって、ずっと家に引きこもっていた。

でも、そんなことも、……言えない。

「そんなこと思われるわけないだろ。」

えっ?

「だって俺達は、そう思わせないくらい、お似合いだから。」

……へっ!?

「んー、でもまぁ、ヒール履いてる日奈子も可愛いから、いいや。」

ほ、ほう……。

いや、け、健吾って、こういうこと平気でいう人だったっけ……?

来た場所は遊園地。

本当は、高校入学した後に、明人くんと一緒に行く
約束をしていたんだけど……。

遊園地デートは、私の憧れだった。

いつか、王子様と一緒にって思ってた。

「よし!お前、絶叫系好きだったよな?」

流石、幼馴染みだ。

お互いの好きなものや、苦手なものは、ある程度、知っている。

「うん!」

「じゃあ最初は、ジェットコースターからだ!」

健吾が嬉しそうに、私の手を握った。

それからは本当に早かった。色々な乗り物に乗り、美味しいご飯も食べて、園内のゲームセンターで、ゲームをして……。

楽しかった。

どんどん自分の中で、明人くんの存在が薄くなっていく。

ただ……、

慣れないヒールで、足が痛くなっていた。

「日奈子、何が欲しい?」

クレーンゲームの前で、健吾が私に聞いた。

そこには、沢山の動物のぬいぐるみが並べられている。

うーん、どれにしようかな。

あ!

あのウサギ、可愛い!

奥の方に、ちらっとウサギの姿が見えた。

ウサギは私の一番好きな動物。

でも、それだけじゃなくて、なにか、惹き付けられるものがあった。

「あの、ウサ……、」

でも、直前で言うのをやめた。

「ううん、健吾から貰ったものなら、何でも嬉しい。」

せめて、精神年齢くらいは高くしようと思った。

そうすれば、少しは身長も高く見えるかもしれないから。

きっと、私の外見だけが悪いわけではない。

内面を変えれば、外見だって、多少は変わってくるのだと思う。

こういった努力は、きっと大切だ。

「そうか?本当に何でも?」

「うん。」

結局、健吾は、羊のぬいぐるみを取ってくれた。

「ありがとう。嬉しい。」

そう言って、ぬいぐるみを受け取った。

羊も可愛いから、これでもいいや。
嬉しい気持ちは嘘じゃない。

「日奈子、最後にさ……、観覧車、乗らない?」

乗りたい!観覧車は、遊園地デートの中でも、
憧れ中の憧れ!

いや、それ以前に、さっきから足が悲鳴をあげていた。

痛くて痛くて……。でも、やっと座れるっ……!

そっちの喜びの方が大きい気がする。

「楽しそう。」

そう言って、観覧車へと向かった。

やっと!幼き頃からの願いが叶う!!
&やっと座れっ……!!

「あれ?何か、張り紙がある。」

へ?張り紙?

「えーっと、なになに?生憎ですが、修理中の為、運転を中止させていただいています。申し訳ございません。」

な、なぬぅぅぅ!?

「うわー、マジかー。」

せ、精神的&肉体的なダメージが……。
もう、泣きたい……。

「残念だけど、でも今日は本当に楽しかったから、悔いはないよ。」

本当はあるけど……。それに、足が……。

「……なんか日奈子、大人だな。」

お、大人……!よしっ!

「そんなことないよ。」

「そうか?」

「うん。」

バレてない……よね?大丈夫だよね。

私、ちゃんと迷惑かけないように、健吾の彼女、
頑張るから……。

「日奈子が、ちょっとでも前に進めそうなら、俺は嬉しい。」

健吾……。

『ウサギが欲しい』とか、『足が痛い』とか、
そんな我儘なんて言わないよ。

我慢ばかりしているけど、それでいいの。

健吾に嫌われなければ……、

それでいいの。
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