キミがくれたコトバ。
38.5



もう、帰ってしまっただろうか……?

「日奈子……!日奈子、何処だ……?」

何処だ?何処にいる?よく考えろ。

帰っていなかったとしたら、日奈子が行きそうな場所……!

はっ!

その時、初めて気がついた。

僕は……、日奈子のこと……、全然知らないんだ……。

誕生日は?血液型は?好きな食べ物は?好きな色は……?

全然……知ろうとしていなかった。

いや、違う。本当はずっと知りたかったんだ。

大事なことも、些細なことも。

怖かっただけだ。

何処かで心にブレーキをかけていたんだ。

「あ〜!王子発見〜!!!キャッ!」

クラスの数人の女子が僕を取り囲んだ。

「ね〜ね〜、さっき何で逃げちゃったのぉ〜?」

「優先順位ってなぁに?」

くそっ、こんな時に……!

違う!こんな時だからこそだ。

現実から逃げるな。

「……日奈子。」

「え?何?何か言った??」

「日奈子……!日奈子、何処にいるか知らないか!?」

無駄だろうか。もし、仮に知っていたとしても……、

「知ってるよ〜。」

!?

「ほ、本当か!?」

「うん。体育館で王子達の放送を観るって言ってたから、体育館にいるんじゃないかなあ?」

さ、さっきの放送、観ていたのか……!?

「ありがとう!」

そう言って僕は再び走り出す。

「あ!待って、王子!」

いつもは、こんなこと言われても、立ち止まらない。

でも、今日は立ち止まって振り返った。

別に特別な意味は無い。ただの気まぐれだ。

「うちら、昔のこと、本当に申し訳ないと思ってて……。だから、こんなことでも、役に立てたらって。」

「だから、日奈子ちゃんと幸せになってね!!」

女子達が、躊躇いながら、そう言った。

なんだ。素直なところも、あるんだ。

「ありがとう。それ、もう無かったことにして良いから!」

それだけ言うと、今度こそ振り向かずに、体育館へ向かった。
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