キミがくれたコトバ。
42.5



日奈子の手を握った。

澄春くんの合図で、一気にここを出るんだ。

「大丈夫かな……?」

日奈子が不安そうに僕を見つめている。

「大丈夫。絶対。」

根拠なんてないけど。

その時、外の騒ぎが一際大きくなった。

「颯磨王子〜?保健室なんじゃないの〜??」

「出てきてよ、王子!!」

まずい。

「ちょっと、ちょっと、そこのみんな!!!」

外で、大きな声がした。

澄春くんだ……!!

「あ〜、澄春王子だ〜!」

「どうしたの???」

「あっち!颯磨くんが、あっちへ走っていくのが見えたんだ!多分、体育館だと思う!」

大衆が、保健室から遠ざかる足音が聞こえてきた。

澄春くん、ありがとう。

「行くぞ。」

「うん。」

日奈子の左手を握っている、僕の右手に、少しだけ力を加えた。

そして……、

ガチャ!ガラガラガラ!

保健室の鍵をとドアを開け、全力で学校の出口を目指した。

走りながらずっと、日奈子のことを、そして、澄春くんのことを考えていた。

澄春くんだって、日奈子が好きなはずなのに、それなのに、どうして僕の助けをしてくれたんだ……?

僕は……、何もしてない。

そんな僕が、するべきこととは……何だろう……?次にとる行動は……?

「はぁ、はぁ、はぁ……。」

そんなに長い距離を走ったわけではないけれど、張り詰めた緊張感と混じりあって、息が切れた。

澄春くんのおかげで、保健室の前には人がいなかった為、誰にも追いかけられることはなかった。

そして、なんとか玄関まで辿り着いた。

「日奈子、大丈夫か?」

「……うん、大丈夫だよ。でも、颯磨くん、足速いから、追いつくの、大変だった。」

「……ごめん!」

「ううん、全然謝ることなんてないよ。王子って凄いんだね。あんなに沢山の人を引き寄せたり、遠ざけたり。」

日奈子が笑う。

僕の好きな笑顔。

「僕は王子なんかじゃないよ。」

そう言った時だった。

「やっぱり王子、こっちにいた。」

背後から声がして、振り返ると、3人組の女子が立っていた。

全員、見たことのない女子だ。

「颯磨王子が放送室を出る時、澄春王子は、颯磨王子に向かって、『頑張って!』って言った。応援してるのに、颯磨王子の居場所を教えるなんて、おかしいと思ったんだよね。」

図星だ。

でも、せっかくここまでみんなが繋げてくれた。

だから、なんとかしてでも絶対に誤魔化す。

「っていうか、その子は誰?」

「まさか彼女じゃないよね?」

日奈子の表情が曇っていくのが分かった。

『彼女だ。』と、胸を張って言える。言いたい。

でも、言ったら日奈子はどうなる?

もし、僕がそう言ったことで、彼女たちが日奈子の誹謗中傷を始めたりしたら……。

それこそ、日奈子を悲しませる元凶となる。

「答えられないってことは、本当にこの子なんかが彼女ってこと?」

「それは……。」

どうしたら正解か。一体、何が正解なのか。答えが無い時が、分からない時が、現実世界には沢山ある。

そんな世界で……、でも僕は、最適解を選びたい。

僕にとっての最適解じゃなくていい。

君にとっての、最適解を。
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