キミがくれたコトバ。
第2章
8
学校へ行かないことに関しては、母も父も、特に何も言わないでいてくれた。
このまま留年、または退学になるのかな……?
と、ぼんやり思いながら、日々を過ごしていた。
そんなある日、私の家に、保健室から一本の電話が届いた。
「もしもし、泉沢 日奈子です。」
「あ、日奈子ちゃん!」
保健室の、若くて美人で優しいことで有名な、
瞳先生だった。
「はい。」
「突然で悪いんだけど、『保健室登校』、してみない?」
保健室登校……?
「学校の保健室に来るだけでいいの。授業には出ずに、保健室へ来るだけ。」
保健室に、行くだけ……?
「それなら、進級もできるだろうし、楽しいことも、あるかもしれないし。」
楽しいこと……?そんなの……。
悲劇のヒロインじゃないけど、いや、悲劇のヒロインじゃないからこそ、あるわけないよ。
「保健室登校の生徒は、他にいますか?」
「ええ。日奈子ちゃんの他に、あと3人いるよ。」
3人も……。
「やっぱりみんな、何らかの原因があって保健室登校になった子だから、みんな優しいわよ。」
『優しい』
そんなの分からないよ。
『この人は優しいですよ。』と言われて、
『そうなんですね〜。』と返せるくらいの余裕はない。
でも、これ以上行かずに、進級できなかったら、
親を困らせることになる。
これ以上は、誰にも迷惑をかけないって決めたから……。
だから私は、保健室登校することを決めた。
─そして、当日。─
「おはようございます…………。」
教室では1時間目がとっくに始まっている。
わざと、この時間を選んだ。
そうすれば、誰かに会うことはない。
「あ、日奈子ちゃん!いらっしゃい。待ってたのよ。」
「遅くなってしまって、すみません。」
「いいのよ、いいのよ。ここは、いつ来てもいいから。」
優しいな……。いつ来てもいいなんて。
「じゃあ先生は、今から出張だから。適当にこの部屋を使ってくれればいいよ。」
先生はそう言って、保健室を出ていった。
保健室の中は、しんと静まり返っている。
私の他にあと3人って言ってたけど、まだ来てないのかな……?
「よっ!」
ビクッ!
「わぁっ!!」
いきなり、後ろから声をかけられて、心臓が飛び出るほど驚いた。
「あ、あの時の……!」
ベッドの中に隠れさせてくれた人だ!
今でも思い出すと、恥ずかしいっ……。
「あの時って、どの時の?」
どの時って、1回しか会ったことないんだから。
「あの時は、本当にありがとうございました。」
「だから、どの時の?」
「ベッドに隠れさせてもらった時の……です。」
「あ〜、あの時ね。別にお礼なんていらない。」
へ?
「あと、タメ口でいいよ。同じ学年だし。」
え?何でこの人が私の学年を知ってるの?
瞳先生から聞いた?
あ……、違う……。新聞部の掲示板か……。
「……うん、じゃあ、タメで。」
私がそう言うと、誰かがベッドから、のこのこと起き上がってきた。
「だっ、誰っ……!?」
驚いた様子で、その人が言った。
「泉沢 日奈子といいます。今日から保健室登校です。」
「ぼ、僕は、細谷京です。」
見るからに身体が弱そうだから、それが保健室登校の理由かな?
「ふ〜ん、君、日奈子っていうんだ。覚えとく。」
この前、助けてくれた、ベッドくん(勝手にあだ名をつけた)が言った。
あれ?
私の学年は知ってたのに、名前は知らなかったの?
じゃあ、掲示板は見てなかったってこと?
なんか、ちょっとだけホッとしたな。
あ、そういえば私こそ、ベッドくんの名前、知らない!
「あの、ベッドくんの名前は……?」
っ!!
言ってから、しまった!と、思った。
勝手に自分の心の中でつけたあだ名を、ついつい声に出してしまった。
「ベッドくん……!?」
恥ずかしすぎて、顔が熱い。
「ご、ごめんなさいっ……!分からないから勝手に心の中であだ名をつけてしまって……。」
わー、怒られるかも……。
「ははははははははっ……。」
ベッドくんがお腹を抱えて笑った。
「ベッドくんって!君、面白いね。」
え?ええ?
戸惑う私をよそに、ベッドくんは爆笑し続ける。
「ごめんごめん。僕の名前は、ベッドくんじゃなくて、水瀬 颯磨。」
水瀬 颯磨くん……。『ベ』も『ッ』も『ド』も
つかないっ……!!
「颯磨って呼んで。僕も日奈子って呼ぶから。」
「分かった。よろしくね、颯磨くん、京くん。」
「よろしく!」
「よ、よろしく。」
なんか……、なんか、楽しい。保健室登校を決めて良かったかも。
あ、そういえば……、
「瞳先生から、あと1人いるって聞いたんだけど……。」
すると2人は、クスクスと笑った。
「彼の話は、しない方がいいかもね。」
京くんが、ニコニコしながら言う。
「噂をした瞬間、いつも現れるからなー。」
???
噂をした瞬間、現れる??
「ちーっす!」
そう言って、1人の男子が、教室に入ってきた。
「ほら、やっぱり。」
颯磨くんが呆れて言う。
「やっぱりってなんだよ。」
「何でもなーい。」
こんな口を聞きながら、仲の良さそうな2人。
でも何だろう、この人。全体的に大きい……!
明人くんが173センチ、健吾が169センチ、それよりももっと大きいということは……、
180センチ、超えてたりして。
羨ましい……。
「あ!ミニーちゃん!」
彼が私を見て、言った。
ミ、ミニー!?
「あの……、ミニーって……?」
「ちっちゃいからミニー!」
ちっちゃい……。
せっかく楽しかったのに、また思い出してしまった。
「お前、バカ!お前から見れば、全員ミニーちゃんなんだよ!」
颯磨くんが、間髪入れずに突っ込んだ。
「そうか〜?」
「そうに決まってるだろ、ほら、俺たちに謝れ。」
「ん〜、じゃあ、この子にだけ〜。ごめんね。」
謝られた私はどうして良いか分からず……、
「あ、いえ……。」
そう言った。
あだ名を勝手につけたのだったら、私も颯磨くんのこと、ベッドくんとか言っちやったし。
「本当の名前は?」
「泉沢 日奈子です。」
「ん?泉沢 日奈子!?え、日奈子って、新聞部の掲示ばっ……、」
「あー!早く、お前の名前も教えろっての!」
背の高い男子が言おうとしたことを、颯磨くんが無理矢理遮った。
「俺の名前は、辰巳大輔。宜しく。」
「よ、宜しくね。」
京くんや颯磨くんとは、雰囲気が全然違う。
「日奈子ちゃん、何科?」
「特進科Aです。」
「……マジかよ、またかぁ〜!」
大輔くんが、頭を抱えた。
また??
「京が特進科A、颯磨が特進科S、そして俺は普通科。」
あ〜、なるほどね。
仲間がいないっていうこと……?
「せめて国際コミュニケーション科が欲しい。」
ほ、欲しいって……。
でも、そうか。大輔くんだけ普通科だから、雰囲気がなんとなく違うんだ。
「でも、いいや〜。ミニーちゃん、めっちゃ可愛いから!」
「だから、その名前で呼ぶなっつーの!日奈子、こいつのことは、セ〇ビックくん、略して、『〇ノビッくん』とでも呼んでおきな。」
セ、セノ〇ッくん……!?
「ふっ。面白い……!!」
思わず、噴き出してしまった。
「だろ?」
颯磨くんが、ドヤ顔でいう。
「おい、何だよセノビ〇くんって!」
「嫌なら日奈子のこと、ミニーちゃんって呼ばないことだな。」
「分かった。じゃあ、日奈子ちゃんにする。」
なっ!なんと単純なんだ!!
「あの、颯磨くんって、特進科Sなの……!?」
特進科Sといえば、偏差値が75で、学校一頭の良いクラスだ。
「うん。」
「凄い!!」
「そうかな?」
「それだけじゃないぜ!」
大輔くんが、腕を組んで、得意そうに口を挟む。
「特進科Sの主席。つまり、トップだ!」
!?!?
しゅ、主席ぃ!?
「模試も毎回、市内で1番だしなっ!」
「えええ!!!凄い!!!」
確かに、キリッとしていて、口元は、キュッと結ばれてる辺りが、秀才に見える。
「なんで、お前が自慢してるんだよ。」
颯磨くんが大輔くんに言う。
「お前は、なんで自慢しないんだよ!」
「別に、自慢することでもないし。」
す、少しくらいは自慢してもいいのに。
「かぁ〜!ムカつく〜!!」
大輔くんが机をバンバン叩く。
「俺なんて、どうせ偏差値40の普通科だよ!」
「お前こそ、そんなこと言いながら、模試はいつも偏差値55だって、自慢してくるじゃん。」
それって、国際コミュニケーション科と同じ位じゃん……!
「そんな学力があるのに、何で普通科にしたの?」
「ん?ゆるいからだよ。」
へっ……?
「普通科の方が、授業数が少なくて楽だし、校則もゆるゆるだからね〜。」
大輔くん、意外と掴みどころがないのかも!
そんなことより……、
こんなに会話が弾んだのは、いつぶりだろう?
保健室登校は、できるだけ楽しめるといいな。
学校へ行かないことに関しては、母も父も、特に何も言わないでいてくれた。
このまま留年、または退学になるのかな……?
と、ぼんやり思いながら、日々を過ごしていた。
そんなある日、私の家に、保健室から一本の電話が届いた。
「もしもし、泉沢 日奈子です。」
「あ、日奈子ちゃん!」
保健室の、若くて美人で優しいことで有名な、
瞳先生だった。
「はい。」
「突然で悪いんだけど、『保健室登校』、してみない?」
保健室登校……?
「学校の保健室に来るだけでいいの。授業には出ずに、保健室へ来るだけ。」
保健室に、行くだけ……?
「それなら、進級もできるだろうし、楽しいことも、あるかもしれないし。」
楽しいこと……?そんなの……。
悲劇のヒロインじゃないけど、いや、悲劇のヒロインじゃないからこそ、あるわけないよ。
「保健室登校の生徒は、他にいますか?」
「ええ。日奈子ちゃんの他に、あと3人いるよ。」
3人も……。
「やっぱりみんな、何らかの原因があって保健室登校になった子だから、みんな優しいわよ。」
『優しい』
そんなの分からないよ。
『この人は優しいですよ。』と言われて、
『そうなんですね〜。』と返せるくらいの余裕はない。
でも、これ以上行かずに、進級できなかったら、
親を困らせることになる。
これ以上は、誰にも迷惑をかけないって決めたから……。
だから私は、保健室登校することを決めた。
─そして、当日。─
「おはようございます…………。」
教室では1時間目がとっくに始まっている。
わざと、この時間を選んだ。
そうすれば、誰かに会うことはない。
「あ、日奈子ちゃん!いらっしゃい。待ってたのよ。」
「遅くなってしまって、すみません。」
「いいのよ、いいのよ。ここは、いつ来てもいいから。」
優しいな……。いつ来てもいいなんて。
「じゃあ先生は、今から出張だから。適当にこの部屋を使ってくれればいいよ。」
先生はそう言って、保健室を出ていった。
保健室の中は、しんと静まり返っている。
私の他にあと3人って言ってたけど、まだ来てないのかな……?
「よっ!」
ビクッ!
「わぁっ!!」
いきなり、後ろから声をかけられて、心臓が飛び出るほど驚いた。
「あ、あの時の……!」
ベッドの中に隠れさせてくれた人だ!
今でも思い出すと、恥ずかしいっ……。
「あの時って、どの時の?」
どの時って、1回しか会ったことないんだから。
「あの時は、本当にありがとうございました。」
「だから、どの時の?」
「ベッドに隠れさせてもらった時の……です。」
「あ〜、あの時ね。別にお礼なんていらない。」
へ?
「あと、タメ口でいいよ。同じ学年だし。」
え?何でこの人が私の学年を知ってるの?
瞳先生から聞いた?
あ……、違う……。新聞部の掲示板か……。
「……うん、じゃあ、タメで。」
私がそう言うと、誰かがベッドから、のこのこと起き上がってきた。
「だっ、誰っ……!?」
驚いた様子で、その人が言った。
「泉沢 日奈子といいます。今日から保健室登校です。」
「ぼ、僕は、細谷京です。」
見るからに身体が弱そうだから、それが保健室登校の理由かな?
「ふ〜ん、君、日奈子っていうんだ。覚えとく。」
この前、助けてくれた、ベッドくん(勝手にあだ名をつけた)が言った。
あれ?
私の学年は知ってたのに、名前は知らなかったの?
じゃあ、掲示板は見てなかったってこと?
なんか、ちょっとだけホッとしたな。
あ、そういえば私こそ、ベッドくんの名前、知らない!
「あの、ベッドくんの名前は……?」
っ!!
言ってから、しまった!と、思った。
勝手に自分の心の中でつけたあだ名を、ついつい声に出してしまった。
「ベッドくん……!?」
恥ずかしすぎて、顔が熱い。
「ご、ごめんなさいっ……!分からないから勝手に心の中であだ名をつけてしまって……。」
わー、怒られるかも……。
「ははははははははっ……。」
ベッドくんがお腹を抱えて笑った。
「ベッドくんって!君、面白いね。」
え?ええ?
戸惑う私をよそに、ベッドくんは爆笑し続ける。
「ごめんごめん。僕の名前は、ベッドくんじゃなくて、水瀬 颯磨。」
水瀬 颯磨くん……。『ベ』も『ッ』も『ド』も
つかないっ……!!
「颯磨って呼んで。僕も日奈子って呼ぶから。」
「分かった。よろしくね、颯磨くん、京くん。」
「よろしく!」
「よ、よろしく。」
なんか……、なんか、楽しい。保健室登校を決めて良かったかも。
あ、そういえば……、
「瞳先生から、あと1人いるって聞いたんだけど……。」
すると2人は、クスクスと笑った。
「彼の話は、しない方がいいかもね。」
京くんが、ニコニコしながら言う。
「噂をした瞬間、いつも現れるからなー。」
???
噂をした瞬間、現れる??
「ちーっす!」
そう言って、1人の男子が、教室に入ってきた。
「ほら、やっぱり。」
颯磨くんが呆れて言う。
「やっぱりってなんだよ。」
「何でもなーい。」
こんな口を聞きながら、仲の良さそうな2人。
でも何だろう、この人。全体的に大きい……!
明人くんが173センチ、健吾が169センチ、それよりももっと大きいということは……、
180センチ、超えてたりして。
羨ましい……。
「あ!ミニーちゃん!」
彼が私を見て、言った。
ミ、ミニー!?
「あの……、ミニーって……?」
「ちっちゃいからミニー!」
ちっちゃい……。
せっかく楽しかったのに、また思い出してしまった。
「お前、バカ!お前から見れば、全員ミニーちゃんなんだよ!」
颯磨くんが、間髪入れずに突っ込んだ。
「そうか〜?」
「そうに決まってるだろ、ほら、俺たちに謝れ。」
「ん〜、じゃあ、この子にだけ〜。ごめんね。」
謝られた私はどうして良いか分からず……、
「あ、いえ……。」
そう言った。
あだ名を勝手につけたのだったら、私も颯磨くんのこと、ベッドくんとか言っちやったし。
「本当の名前は?」
「泉沢 日奈子です。」
「ん?泉沢 日奈子!?え、日奈子って、新聞部の掲示ばっ……、」
「あー!早く、お前の名前も教えろっての!」
背の高い男子が言おうとしたことを、颯磨くんが無理矢理遮った。
「俺の名前は、辰巳大輔。宜しく。」
「よ、宜しくね。」
京くんや颯磨くんとは、雰囲気が全然違う。
「日奈子ちゃん、何科?」
「特進科Aです。」
「……マジかよ、またかぁ〜!」
大輔くんが、頭を抱えた。
また??
「京が特進科A、颯磨が特進科S、そして俺は普通科。」
あ〜、なるほどね。
仲間がいないっていうこと……?
「せめて国際コミュニケーション科が欲しい。」
ほ、欲しいって……。
でも、そうか。大輔くんだけ普通科だから、雰囲気がなんとなく違うんだ。
「でも、いいや〜。ミニーちゃん、めっちゃ可愛いから!」
「だから、その名前で呼ぶなっつーの!日奈子、こいつのことは、セ〇ビックくん、略して、『〇ノビッくん』とでも呼んでおきな。」
セ、セノ〇ッくん……!?
「ふっ。面白い……!!」
思わず、噴き出してしまった。
「だろ?」
颯磨くんが、ドヤ顔でいう。
「おい、何だよセノビ〇くんって!」
「嫌なら日奈子のこと、ミニーちゃんって呼ばないことだな。」
「分かった。じゃあ、日奈子ちゃんにする。」
なっ!なんと単純なんだ!!
「あの、颯磨くんって、特進科Sなの……!?」
特進科Sといえば、偏差値が75で、学校一頭の良いクラスだ。
「うん。」
「凄い!!」
「そうかな?」
「それだけじゃないぜ!」
大輔くんが、腕を組んで、得意そうに口を挟む。
「特進科Sの主席。つまり、トップだ!」
!?!?
しゅ、主席ぃ!?
「模試も毎回、市内で1番だしなっ!」
「えええ!!!凄い!!!」
確かに、キリッとしていて、口元は、キュッと結ばれてる辺りが、秀才に見える。
「なんで、お前が自慢してるんだよ。」
颯磨くんが大輔くんに言う。
「お前は、なんで自慢しないんだよ!」
「別に、自慢することでもないし。」
す、少しくらいは自慢してもいいのに。
「かぁ〜!ムカつく〜!!」
大輔くんが机をバンバン叩く。
「俺なんて、どうせ偏差値40の普通科だよ!」
「お前こそ、そんなこと言いながら、模試はいつも偏差値55だって、自慢してくるじゃん。」
それって、国際コミュニケーション科と同じ位じゃん……!
「そんな学力があるのに、何で普通科にしたの?」
「ん?ゆるいからだよ。」
へっ……?
「普通科の方が、授業数が少なくて楽だし、校則もゆるゆるだからね〜。」
大輔くん、意外と掴みどころがないのかも!
そんなことより……、
こんなに会話が弾んだのは、いつぶりだろう?
保健室登校は、できるだけ楽しめるといいな。