人面瘡
外にも出られず、ずっと閉じこもっていたおつねは毎夜毎夜怯えていたのではないか?


外へ出ると殺される。


その恐怖を、呪われてもいないおつねは背負っていたんじゃないのか。


そう気が付くと、途端に胸が苦しくなった。


まるで、当時のおつねの感情があたしに流れ込んできているような感覚だった。


「おつねさんも、辛かったんですよね」


あたしは今の自分の感情をそのまま口に出していた。


「そう、思うか?」


「はい。生まれつきアザがあると言うだけで毎日命を狙われていたんです。きっと街の人々を恐れ怨みんでいた。もしかしたら、心の中で呪っていたかもしれない。でもそれは自然なことです。あたしがおつねさんの立場なら、きっと同じことをします」


そう言うと、春子のお父さんは何度も頷いてくれた。


「そういう意見を持っている人に出会いたかったんだ。ちょっと待っていてくれ」


春子のお父さんはそう言うと、席を立ったのだった。

< 177 / 204 >

この作品をシェア

pagetop