極甘ウエディング~ようこそ俺の花嫁さん~


「すみ、ません……」


受け取ったハンカチを目元に宛てがい、長谷川さんは頭を下げる。

本社ビルで初めて会ったミーティング時も今日も、気丈な振る舞いできっと強い女性なのだろうと思っていた。

だけど、こんな堰を切ったように涙を流すなんて、一体どうしたのだろう。


「不安て……例の、新婦様側のお父様の出欠のことで?」

「……はい。いろいろ、提案はして……でも、難しいのかなって。私には、無理かもしれない……」


弱音とも聞こえる長谷川さんの細く頼りない声。

依然、涙はポロポロと流れている。


「とりあえず、落ち着きましょう。打ち合わせ、十一時からですよね? お客様がいらっしゃる前に泣いた顔を何とかして……あ、ほら、もしかしたら今日の打ち合わせで、お父様からいい返事がもらえている可能性もあるし!」


長谷川さんがこれ以上泣いてしまわないように、努めて明るく振る舞い励ます。

腕時計を見ると、約束の時間まで三十分をきっていた。

涙を止めて泣き顔を直してくるように、長谷川さんをお手洗いへと見送った。

< 169 / 358 >

この作品をシェア

pagetop