私に光を〜あなたを信じるために〜
昨日の夜、私は決めたんだ。もう絶対に翔君への思いを捨てるって。それで、七花先輩や他の人たちを応援するって!本当は翔君の好きな人だからさ、応援したくなるんだよ。考えてたらそう思ってきたんだ。好きな人の幸せを願うのが私の役目なんだから。

私が教室に入るとざわついた。
「おはよう、華奈」
「…」
あれ、聞こえなかったかな。今度はもう少し、声大きめで。
「華奈?おはよう?」
「…」
絶対に聞こえているはずなのに…華奈は…無視してるの?
動揺している私に周りの人が言った。
「ちょっとこっち来てよ…」
なんだかすごい怖かった。黒いオーラがでてる。それでも、ついていく。
「あんたさ、神宮寺 翔っていう1つ上の先輩いるの知ってるでしょ。華奈はその人のこと好きなのに、なんで一番仲良かったあんたがあの二人を引き裂かないの?マジ最低…」
リーダーの心ちゃんが言い出す。
「え?私は…」
肩をすくめながら言った。
無理だよ。翔君が好きな人と一緒にいて幸せの中…引き裂くなんて…それに、華奈はもういいんじゃないの?
「私はなによ。どっちにしてもあんたがあの二人を引き裂かない限り、居場所はないよ?」
「…で、でも…無理だよ…」
怯えながら言う。何でこんなことになったかわからないけど。
「は?」
心ちゃんは私の胸ぐらを掴む。
怖い…怖い…怖い…
助けて…
「何くだらねぇ理由でつまんねぇことやってんだよ」
私がぱっと振り向くとそこには神宮寺君がいた。すぐに心ちゃんは、私の胸ぐらを離す。
「えー?界君、何言ってんのー?」
心ちゃんや周りの子は言い訳をしていた。
「お前らの方が何言ってんのだよ。全部知ってんだよ。小林の出来事を利用して、みんなでもともと星野にイラついてたしとか言って…一番仲いい小林まで乗っかってどうすんだよ…ほんとにくだらねぇ」
神宮寺君が私の知らないことまで言うからびっくりした。そんなに嫌われてたんだ…
「な、なによそれ…私の気持ちなんて知らないくせに」
華奈…
何あったの?私はそんなことも聞けなかったんだから仕方ないよね。ごめんね、華奈、みんな…
「あぁ。話になんねぇ。行くぞ、星野」
私の手を取り、神宮寺君が歩き出す。
冷たい視線が私の背中に当たりながらも、神宮寺君に引っ張られて歩く。

教室につくと神宮寺君が私の手を離す。そして、呟く。
「ごめん」
神宮寺君は何も悪いことしてないのにどうして謝るの?
「あんなんもう気にすんな」
何があったの?
沢山聞きたいことあったけど神宮寺君の気にすんなって言葉が詳しく聞くなって言ってるみたいで聞けなかった。わかんないことが沢山なんだよ。
私たちの後に続いて数分遅れで華奈達が教室に入ってきた。華奈を見つめることすらできない。私はじっと下を向く。
授業が始まる前の少し、湊がこっちへ来た。
「どうしたの?」
耳元で囁いてくれるから、もう湊にはわかっちゃってんのかなって思う。
「なんでもないよ。心配かけてごめん」
なるべく湊には心配かけたくないんだよね。今までずっと心配ばっかりかけてきたから。
「そっか。何かあったら言ってね」
湊が妙に優しくて…いや、いつも優しいよ?でも今はいつも以上に優しかったんだ。
私は女子全員を敵に回した(勝手に回ったのかな)から、湊のもしいつもと変わらない優しさでもすごく優しく感じてしまうだろう。
授業が始まり、終わる。
休憩を挟んでまた始まり、終わる。
それを6回繰り返した。今日は好きな教科ばかりだったのに時間が早く進むと思うことはなかったよ。
放課後、神宮寺君に呼ばれる。
「もし、またあーゆーことあったら俺呼んで。絶対勝てる自信あるから。絶対に…ま、守るから」
二ヒッと笑って少し照れて、そうやって言ってくれた。本当に嬉しかった。
「ありがとう」
これが私の精一杯のありがとう。神宮寺君には届いたかな。
「下校1人?」
「あぁ、大丈夫!他クラスにいるから」
1人だと言ったら神宮寺君を心配させちゃうと思って嘘をついた。
「そう。待つの?」
「うん、待つ。神宮寺君は友達とか待ってないの?」
「おう、今日は1人で帰る。寄り道したいし」
「そうなんだ…わ、私も一緒に帰ってもいい?寄り道してみたい!」
心配とかもうわかんなくなって、1人で寄り道とか私だったら嫌だしとか私も一人でちょうどいいしとか思って私といても有意義な時間を過ごせるわけじゃないけどね。
「いいよ。でも、友達は?」
「えーと、嘘ついた…ごめん」
ここは正直に。
「そうか(笑)寄り道して怒られても知らねーよ?」
「おう!」
ちょっとかっこつけて返事してみた。神宮寺君とのこんな会話が楽しかった。

「ここ、おすすめの暇つぶし場所」
そこは広いだけの公園だった。ベンチがそこそこあって小さいブランコが1つある公園。
「へー、神宮寺君ってもっとなんかこう…表現出来ない…」
「ゲーセンとか行ってそうとかだろ?」
「そんな感じかな。でも、これはこれで神宮寺君の意外な一面みたいなので嬉しいな」
「そりゃよかった。つか、神宮寺君って呼ぶのめんどくね?界でいいよ」
「界君」
ニヤニヤしながら言ってしまったからこいつ変態かよって思われたかもしれない。でも、界君はそんな人じゃないから…

「今日は本当にありがとう。すごく楽しかったよ」
「こちらこそ」
それだけ言って界君と別れた。

家へ帰ると、お父さんとお母さんがいないと思って帰ってきたのにいた。だから、やばいと思って、こっそり部屋へ入っていく。
「夏織」
お父さんが私を呼ぶ。ビクッとした私は恐る恐る振り向くと真剣な顔をした2人と駿がいた。
「こっちへ来て座りなさい」
あまりにも真剣な顔をしているからこの先何を言われることかと考えて考えて考えまくっていた。けれど、結局わからないからとりあえず
「はい」
と言って椅子に座った。
「夏織、駿…実は…」
父が唇を噛み締める。
「ブラジルに単身赴任しなくてはいけなくなった、ごめん」
そんな…こと…いきなり言われても…
「いつ…いつ帰ってくるの?」
私はもう頭が真っ白になり、あの仕事をするにあたって単身赴任なんてするの?としか疑問があがらなかった。
「いつ頃かな。7年後には帰ってこられるらしい」
「7年後?」
駿の目が潤んでいた。まだ駿は小学生なのに…
「俺も不安なんだ。夏織と駿がちゃんと成長していけるか。それに娘や息子の成長を見れないことは親としてもう嫌で嫌で仕方ないんだよ。でも、仕事なんだ。休みがあったら帰ってくるから」
「嫌だよ…」
そうそうわがまま言わない駿がとうとう涙を流して言う。
「私も嫌だ…」
駿の笑ってる顔を見たいし、私も残業とかであまり帰ってこないお父さんとより一層離れるのは嫌だ。
「そこで、1つ提案いい?」
この嫌な空気を切り裂くようにしてお母さんがぱっと明るい表情で言う。お母さんはどんな辛いことがあっても絶対に笑顔でいる。そこはすごいところだけど、今はその表情も嫌になっていく。
「みんなで一緒にブラジルに行っちゃうのはどうかなとか思ってみたり…もちろん、嫌だったらいいんだけど」
いやいやいや、待てよ?ってことは転校するってことだよね?ブラジルに引っ越すってことだよね?
丁度いいかも。もうあんな目に遭わずに済むんだから。
「…俺らのこともちゃんと考えてよ」
駿がそう言うから私のさっきの情けない答えも打ち消された。確かに情けないよね。私、格好悪すぎだね。
駿はそれから部屋にすぐに戻り、私もその後に続いて部屋に戻った。

ベッドにダイブして、考え込む。
クラスの女子にいじめられたこと、そして今後もいじめられること、お父さんの単身赴任、駿の涙…もういっぱいいっぱいで…
そうしたら自然と涙が出てきたよ。
もう寝よう。
このままずっと眠ってしまいたいな。
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