桜前線

ダンダンダダダダダン……。

バスケットボールの音がリズム良く鳴り響く。
スパイクシューズと床がキュッと擦れる音も、心地が良い。

開け放たれた体育館の扉からは初夏の生ぬるい風がその場の空気をかき回す。

汗の匂い、タオルから香る洗濯洗剤の匂い。

心地が良くて眠くなる…。

ピピィーーーッ!!

タイマーの音が今のコートの試合終了の合図を告げ、ハッと我に帰る。

「ちゃんと畳めたか?」

ドヤ顔でこちらに近づく意地悪な先輩。

「全部畳みましたよ!私はこれで練習に行くんで失礼します!後はよろしくお願いしますね、センパイ!」

普段、仏頂面の自分でも気持ち悪いくらいの笑みを和津さんに渡して、キッチリ畳んだタオルをその場に残して後にした。

振り返ると彼はニッコリはにかんで、「サンキューー!」と叫んだ。


もう!!

こういうスマイルは女子ファンに向けてもらいたいくらい!

あーもう忘れよっ!集中せねば!


この時の思考を搔き消すように、試合開始の合図で弾かれたボールを私は全力で走って追いかけた。





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