彼女と一秒でも長く一緒にいたいから、僕は全て神様に納めました
「お母さん」

僕は、震えた声でお母さんと呼んだ。

「私、お父さんに捨てられたのかな?」

口から出た母親の衝撃的な言葉が、僕の胸をえぐった。

笑顔だったが、母親の頬に一筋の涙が流れていたのが僕の瞳に映った。

「家族三人なかよく写ってる、このときの写真がなつかしいね」

家族三人写っている写真に視線を移して、母親は悲しそうに言った。

「お母さんは、捨てられてなんかいないよ!」

開いた口が、思わずそう言った。

「願‥‥‥‥」

小さな声で呟いて、母親が僕に視線を移した。

「お母さんは捨てられてなんかいないし、きっと戻ってくるよ」

離婚届に半も押してある父親がもう戻ってこないことは確実だったが、僕は嘘をついて母親の気持ちを楽にさせてあげようと思った。

「願は、優しいんだね」

母親はイスから立ち上がって、僕の背中に手を回して優しく抱きしめた。

母親の温かい体温が僕の体全体に伝わり、家族三人仲よかった記憶がよみがえった。

「お母さん」

僕は、震えた声で言った。

「願、私たち両親のこと許してね」

そう言って母親は、僕を抱きしめる力を強めた。

「お母さん」

もう一度僕は、震えた声でそう言った。

僕の耳に母親の嗚咽声が聞こえ、胸が苦しくなった。
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