彼女と一秒でも長く一緒にいたいから、僕は全て神様に納めました
「今日は、お金ないよ」

僕は、抑揚のない声で言った。

「はぁ、マジかよ。願の口から『お金がない』という言葉が出るなんて、雨でも降るんじゃないか?」

尊人は目を丸くして、僕を見つめた。

「僕だって、お金がない日だってあるよ。それに、僕がお金を持ってないからと言って、雨は降らないよ」

僕は、むっと眉間にしわを寄せて言った。

今日の天気は一日中晴れ模様で、降水確率もゼロパーセントだとテレビで報道していた。九月中頃の最高気温は三十度近くまで上がると気象予報士が言っていたが、日が沈むにつれ、街の気温は涼しくなっていた。

「お前、ほんとうにお金ないのか?ほんとうは俺におごりたくないから、嘘ついてるんじゃないのか?」

怪訝そうな表情を浮かべて、尊人は僕を見る。

「持ってないって」

呆れた声で言って、僕はポケットからサイフを取り出して彼に手渡した。
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