幸せを探して
『怖くないんだ…怖がらなくて、いいんだ…』


え?、と私は陸人を見る。


最後の方の言葉は、私達にでは無くて自分に言い聞かせているように聞こえたから。


『怖く、ない…』


陸人の声は震えていた。


『え?』


美花が状況を把握出来ず、困った顔をする。


そんな妹を私は黙らせ、陸人を見る。



『……ありがとう』


何か考えていた様な陸人は、突然笑顔になり私達を見た。


『え、ああ、うん』


『いえいえ…?』


私達は間の抜けた声を出す。


何のありがとうなのか、さっぱり分からなかったからだ。


そんな私達を見て、陸人はふふっと笑う。


『怖くないって言ってくれて、ありがとう』


『ああ!いえいえ!』


美花は理解したように頷いた。




「そんな事もあったなー」


私達は、完全に昔の記憶に浸っていた。


「今思うとさ、あれって陸人の驚異的な記憶能力の事について聞かれてたんだね」


私は頷き、今更ながら気がつく。


あの時、


“怖くない?”


と聞いてきたのは、円周率を沢山言ったことではなく、円周率を沢山言える自分自身についてだという事に。


「え、どういう事?」


私はまたもや質問をする。


「本当は、お盆とかお彼岸とかの時にしか会えないんだけどさ」
< 184 / 248 >

この作品をシェア

pagetop