幸せを探して
「寝た…かな?」



私―川本 美花―は、姉の美空が眠った事を確認し、するりとベッドから抜け出した。


今頃、美空は“本当の”夢の世界へと旅立っていることだろう。



そう。


これは、夢ではない。


現実なのだ。


今まで、美空の前では嘘をつき通し、その嘘をあたかも本物のように演じてみせた。


これ程までに完璧な嘘をついた自分が、凄いと思う。


元々は、私は“夢”の中で美空と会う予定だった。


それなのに、そのルールが私達の居る世界―あの世―で急遽変更になり、“現実”でも会えるようになったのだ。


もちろん、肉体を貰って。


私は迷わず“現実”で美空と会うことを選んだ。


美空には、嘘をついて。



私は美空の寝顔を見下ろす。


今までに見た事がないほど、気持ち良さそうに眠る美空。


もしも、美空が“現実”だと知ってしまったら。


確信を持ってしまったら。


美花は、私をあちらの世界へ戻らせないだろう。


私は何度も見てきた。


美空が苦しそうに笑う姿。


美空が雪を見て、辛そうに顔を歪める姿。


美空が私の仏壇の前に座り、泣きながら謝る姿。
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