幸せを探して
真っ暗闇でも、2人の姿ははっきりと捉えることが出来る。


私はそっと歩み寄り、眠っている流美の目の前にしゃがみこんだ。


「流美?私だよ、美花だよ」


小声でそう呼びかけた後、私はすぐに諦めの笑みを浮かべる。


(もう、私の事なんて覚えてないよね…)


今私の顔を見ても、流美はきっと私の事を“美空”として認識するだろう。


私と同じ顔をしている、美空として。


まだ幼い流美は、時間が経つにつれて私との記憶も薄れていくはず。


いずれ、流美の記憶の中には、私は存在しなくなるのだ。



けれど、それが普通で。


私が自分の世界に戻り、どれほど叫んでも、笑っても、泣いても、決して家族の耳には届かない。


届いては、いけない。


それが、私達の世界での絶対的な約束であり、暗黙のルール。


“私が居ない”日常を、今更幽霊となった私が壊す権利は無いのだから。


私は自分の手を握りしめ、緩くなった涙腺を元に戻す。


(最後に、2人に会えて良かった)


寝ていても、2人の姿を近くで見られただけで十分だった。


(これで、心置き無くあの世へ行ける)


また、幸せな家庭を築いてくれれば、それで良いのだ。


そう思いながら立ち上がり、寝ている2人に背を向けた時。
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