幸せを探して
「…誰?」


と、後ろから寝ぼけた声がした。


ビクンッ、と心臓が飛び跳ねる。


(振り返っちゃ駄目、声を出しちゃ駄目)


まるで呪文のように、心の中で唱え続ける。


出来るものなら今すぐに消えたいけれど、肉体がある今はそれが出来ない。


私は出来るだけ身動きせず、石のように固まっていた。


「…お姉ちゃんか……」


どうやら、流美だったらしい。


寝言か起きたのかは分からなかったが、すぐに流美の寝息が聞こえてきた事が救いだった。


私は後ろを振り返らずに、まるで風のように美空の部屋まで飛んで行った。



美空の部屋に戻った私は、心の中で10秒数えた後、フーッと止めていた息を吐き出した。


隣の部屋へ行くだけで、短い冒険をしたような気分だった。


きっと、今の私の頬は上気している。


心臓が、今までに無い程バクバクと鳴っているのが聞こえる。


「怖かったっ…」


思わずごちた後、私は美空の机に向かった。


最後にもう一度、自分で書いた手紙を読み返したかったからだ。


ゆっくりと、漢字等が間違えていないか確認しながら読み進める。


所々、涙のせいでぼこりと膨らんでいる場所があった。


(美空、許してね)


私は笑いながらページをめくった。
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