幸せを探して
「これ、美空にお土産だよ」


それは、ピンク色のバッグだった。


薄い袋に包まれてはいるけれど、明るいピンク色をしている事はすぐに分かった。


少し外出する時にリュックで出掛けるのが嫌だと言っていた私の不満を、お父さんはちゃんと聞いてくれていた。


「あっ、ありがとう」


そう言い、袋に入ったバッグを受け取ろうと手を伸ばした時。


「駄目だよー」


悪戯たっぷりの声で、お父さんがバッグを私の手から遠ざけた。


「えっ?」


(何?)


「美空、お父さんからの課題、忘れてないよね?」


確認する様に、そして試される様に。


その言葉の意味が、ずしりと私の肩に重みをかける。


「…」


「言ってくれないと、このバッグはあげないよ」


お父さんからのほんの少しの迫力に、私はたじろいだ。



(言わないと駄目かな…?)


出来れば言いたくはなかった。


間違っているかもしれない。


答えが違っていたら、どうしよう。


(やめて…)


そう思いながらお父さんを見るけれど。


お父さんは静かに私の返答を待っている。


私は俯き、顔を伏せる。


けれど、私が感じている視線が逸らされることは無くて。


しばしの沈黙の後、私は断念して口を開いた。
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