幸せを探して
その時によく繰り広げられていた会話を、今になって思い出した。



『お父さん、どうしてお父さんの手は大きいのー?』


幼い日の美花の質問に、お父さんは笑って答える。


『それは、こうやって美空と美花を一緒に抱きしめられるからだよ』


そう言いながら、お父さんは私と美花を抱きしめ、自分の胸に引き寄せる。


私達はお父さんに抱きしめられながら、お父さんの心臓の鼓動に耳を澄ませるのが好きだった。


お父さんの洋服の上から、私達は胸に耳をぺったりとつけて、心臓の音をよく聞いていたものだ。


『お父さん、ドックンドックン鳴ってるー!』


私が興奮しながら口を開くと、


『ドックンドックンしてるー!』


と、美花も同意する。


そんな私達を見ながら、お父さんは優しい微笑みを浮かべていた。



「あ…」


今になって溢れ出す、幼い頃の記憶。


いつの間にか、私の頬は濡れていた。


「…おとう、さん…」


陰で私のことを心配してくれていたお父さんの頬も、濡れている。


私は、そっとお父さんの背中側に手を当てる。


そのまま、いつかと同じように胸に耳を当てた。


心臓の鼓動が、耳に響く。
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