幸せを探して
そう独り言を呟いた後、中山先生はパンパンと手を打って私達の注意を引いた。


「今日は11日だから…。11番の高橋君、大問1の(1)の答えを言ってくれるかな?」


少人数クラスの私の席から見て、斜め前の席に座っている陸人が、自信たっぷりに頷いた。



が、急にこめかみに右手を当て、微動だにしなくなってしまった。


「…高橋君?」


先生が心配そうに陸人の名前を呼ぶ。


「っ…、xを左に移項させて…18を右に移項させてっ……x=9、です……」


とてもゆっくり、時間を掛けて答えた陸人。


その横顔を見ると、青白い色を通り越して蒼白だった。


「はい、その通り!」


陸人の異変に何も言及しない中山先生。


先生が黒板に式を写している間、陸人は指先が白くなる程こめかみを押さえていた。


けれどついに、陸人は机に頭がぶつかる程俯いてしまった。


陸人の隣には女子が座っていない。


私の隣にも、誰も座っていなかった。


大問1の答えがどんどん黒板に書かれていく間、陸人は1度も赤ペンを握らなかった。


そんな陸人を見ている私は、上の空で丸つけをしていた。


全ての意識が陸人に集中してしまっている。


(陸人、大丈夫かな?)
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